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その後、鐘崎 は周 らと協力して江南賢治 の捜索に取り掛かっていった。
「まずは全乗船客のリスト、それから監視カメラの映像を片っ端から洗うぞ」
船長にも情報のすべてを開示してもらい、源次郎 や李 らも一丸となって映像のチェックに乗り出す。
「もしもヤツらがデスアライブに関する組織であれば、当然偽名でこの船に乗り込んでいるはずだ。乗船客名簿の中から実在しない人物を割り出そう」
加えて乗船時の映像と照らし合わせながら怪しいと思われる人物の絞り込みを進めていく。皆、睡眠も度外視で夜通しの作業が重ねられていった。
その間、佐知子 と暸三 には鐘崎 らが使うはずだった部屋で休んでもらうことにし、拠点を設置した周 と冰 の部屋で必死の捜索が進められていく。楽しみにしていた泡風呂どころではなかったし、既にバカンス気分はすっ飛んでしまったものの、誰もが文句のひとつを口にすることなく体制はすっかりオンの状態と化していった。
名簿から怪しい人物が絞り込めてきた頃には、既に空が白み始めて次の朝を迎えようとしていた。
早朝、隣室の暸三 が鐘崎 らの集結する部屋を訪ねて来た。彼もまた、まんじりともできずに一夜を明かしたようだ。捜索に専念する皆の為に茶を淹れたりと、できる限りの気遣いをする姿が健気といえる。
「よし、身元がはっきりしている乗船客の目処はほぼついた。せっかくだ、茶をご馳走になって一服入れるとするか」
暸三 がひたすらに茶の用意をしている気持ちを無碍にしてはいけないと、周 が皆を休憩に誘う。一旦手をとめてリビングに集まり、出された茶を手に取ることとなった。
そんな中、邪魔になってはいけないと恐る恐るながらも、暸三 という青年が鐘崎 に話し掛けてきた。
「あの……鐘崎 さん。お話しておきたいことが……」
鐘崎 もこの暸三 に対しては半ば複雑な気持ちが皆無とは言い切れない立場であろう。父親は違うものの、血を分けた弟ということになる彼に対して、どう向き合っていいのかと戸惑うのは致し方ないといったところだ。暸三 の方も同様のようだが、彼にとっては鐘崎 父子から妻や母親を奪ってしまった男の息子ということで、恐縮する気持ちが重くのしかかっているふうに感じられた。
そんな弟の心中が分かるわけか、鐘崎 もまた、戸惑いつつも彼に罪はないと分かっている。
「――遠慮することはねえ。お前さんと俺とは兄弟になるわけだからな。どんなことでも気負わずに言ってくれ」
そんな鐘崎 の言葉を有り難く受け止めながら暸三 は静かに話し出した。
「実は――私の″暸三 ″という名前ですが。この名は父の江南賢治 がつけてくれたものなのです」
「親父さんが……か?」
「はい。父から名前の由来を聞いたのは私が中学に上がった日のことでした。私には父親が違う兄がいる、母さんが父と出会う前に結婚していた方の息子さんだと。私とは五つほど年が違う兄さんで、名を遼二 さんとおっしゃるのだと聞かされました」
「――親父さんが俺のことを話したのか?」
「はい」
その時に暸三 という命名の由来も聞かされたのだそうだ。
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