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窓の外の大海原に朝陽が昇り、海面を燦々と輝かせ始める。二日目の朝を迎えようとしていた。
台湾に到着するまでにはまだあと丸一日かかる。できることならそれまでに江南賢治 の無事を確かめて奪還したいところだ。
「既に香港の周 ファミリーと台湾にいる俺の親父にも連絡済みだ。現地では楊 一族にも事情を伝えてくれている」
万が一の際は楊 ファミリーの助力も得られるそうだ。そうして外濠は固められつつあったが、とにかくは江南賢治 の現状を探ることが必要不可欠だ。
「この時間ならまだ敵も就寝中かも知れん。目星をつけた部屋を当たってみよう」
乗船客の名簿と監視カメラの映像から偽名と思われる人物の部屋はおおよその見当がついてきた。とはいえ直に船室を訪ねるならば怪しまれないよう注意が必要だ。
「船長のご協力でこの船の乗組員の制服を拝借いたしました。朝食の給仕係に化けて目星をつけた部屋を当たるのは如何でしょうか」
李 が手を回して乗組員に扮する準備を整えてくれたので、動きにも幅が期待できそうだ。おそらくだが、江南賢治 を拉致監禁しているとするなら敵は朝食を室内で摂るはずである。さすがに堂々とバイキングの席へ姿を見せるとも思えないからだ。
「若 ! たった今、船長からの連絡でルームサービスの要請が入った部屋の内、少々食事の量が多いと思われる部屋を特定いたしました」
源次郎 がパソコンの前で逸った声を上げる。客の人数から考えて朝食の量が多いということは、そこに江南賢治 が監禁されている可能性が考えられるということだ。
「ってことは、江南 氏はまだ無事でいるということだな」
少なくとも始末されてはいないと考えられる。
「よし! では変装して俺が乗り込もう!」
鐘崎 が白髪の給仕係に化けてルームサービスを届けるという。
「自分も同行いたします!」
春日野 が名乗りを上げる。二人の素性がバレないよう、五十代の男性給仕係に仕立てる為、すぐに紫月 が変装用のメイクに取り掛かった。
「では不測の事態に備えて俺と李 、劉 で援護する。一之宮 はここに残って暸三 君とお袋さんの警護を頼む」
周 と李 、劉 は鐘崎 らの援護にまわり、紫月 と源次郎 、清水 、それに鄧浩 が暸三 らの警護と共に何かあった場合の通達役に徹することとなった。冰 は真田 と共に皆の食事や茶の支度など、身の回りの世話を焼くことにする。
手元の時計を見れば午前七時を回ったところだ。敵がいると思われる部屋は一等船室、周 らのスイートからは位置的にも離れている。給仕係に化けた鐘崎 と春日野 は、とにかく室内にいる人数の把握をすることから始めることにした。
「江南 氏は当然姿を見られない場所で監禁されているはずだ。バスルームか化粧室、あるいはクローゼットの中か――」
「はい。では気をつけて様子を窺うといたします」
「敵の内、一人か二人は素顔を晒さずにはおられまい。給仕係に顔を見られて困るというよりは、下手に顔を隠して疑われる方がヤツらにとっても都合は悪かろうからな」
「ええ。源次郎兄 さんから隠しカメラを預かってきましたので、彼らの顔を撮影できればと思います」
「くれぐれも気をつけて行け。無理はせず、とにかくは様子を窺えれば万々歳だ」
「承知しました」
少し離れた通路では周 と李 らも別の部屋の給仕係に化けて待機してくれている。その彼らと小さくうなずき合うと、鐘崎 はいよいよ敵陣へと乗り込むべく部屋をノックした。
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