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「おはようございます。ご朝食をお持ちいたしました」
部屋の鍵を開けて鐘崎 らを迎え入れたのは屈強な体つきの男だった。
「失礼いたします」
朝食の乗ったワゴンを引いて鐘崎 と春日野 が室内へと進む。部屋の中央まで入ると、もう一人別の男がソファに腰掛けていた。
「お客様、本日もたいへん良いお天気に恵まれました。当船での旅はお楽しみいただけておりますでしょうか」
鐘崎 がにこやかに話し掛けるも、男二人は軽く会釈で返すだけで口数は多くない。そこに緊張の色を見逃す鐘崎 ではなかった。
「お客様方はお二人で? お食事は四名様分とうかがっておりますが――」
鐘崎 がジュースを注ぎながら小首を傾げて尋ねる。すると、男らは怪しまれない為か、わずかばかりの笑顔を見せながら、「俺たちは大食漢なものでな」と返してきた。つまり、自分たちは二人だが、それぞれ二人分食べると言いたいのだろう。
「左様でございましたか。パンのお代わりなどもご用意してございますので、ご遠慮なくお申し付けくださいませ」
ジュースを注ぎ終え、銀食器の蓋を開けた鐘崎 の後方では、春日野 が食後のコーヒーを沸かすべくメーカーをセットし始める。すると男たちは『あとは適当にやるからもう下がってくれていい』と言った。
「は――、かしこまりました。それでは何かご用がございましたらお声掛けくださいませ」
あまりしつこくして疑われては元も子もない。鐘崎 は相変わらずにこやか且つ爽やかな声音で丁寧に一礼をし、部屋を後にすることにした。
「若 、どう思われましたか?」
「うむ、おそらくあの部屋に監禁されていることは十中八九間違いねえだろう。ベッドルームかバスルームに江南 氏と、それを見張る者がもう一人。あそこには四人がいるはずだ」
食事の量も四人分だった。そして男二人は例え給仕係といえどもあまり外部と接触することを好んでいないように感じられた。
「ヤツらの食事が済んだら引き上げて食器類すべてを持ち帰ろう」
鄧浩 によって指紋の採取はもちろんのこと、後々DNA鑑定なども可能となるからだ。
鐘崎 と春日野 は一旦同じ階のパントリーに身を潜めることにし、彼らの部屋への出入りなどを見張りながら、食器を乗せたワゴンが外へ出されるのを待った。周 らもやって来て、五人で今後の対策を話し合うことにする。
「春日野 、録画の方はどうだ」
「はい、部屋にいた男二人は記録できました」
すぐに劉 がそのデータを持ち帰る。源次郎 が映像を分析して、男らの正体を探る為だ。
「カネ、ヤツらが本星だとして――食べ終わった食器のワゴンには盗聴器の類が仕掛けられることも考えられる。持ち帰る前に一通り確認すべきだろう」
「そうだな。俺たちの正体を疑ってかからねえとも限らん。もしもワゴンに何か仕掛けられていたら、それを外して布で包み、できる限り音を遮った状態で部屋の隅にでも置かせてもらうか。忙しないパントリーでの様子を聞かせればとりあえずのところ安心するだろうからな」
その後、一時間もしない内に男らの食事が済んだのだろう。部屋の外にワゴンが出されたのを見計らって、今度は李 がそれを撤収しに向かった。
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