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パントリーに戻り、怪しまれるような会話を避けながらワゴンを隅々まで調べる。すると思った通りか、小さな盗聴器が仕掛けられているのを発見して、皆でうなずき合った。
パントリーでは本物の給仕係たちが忙しく動き回っていたので、それを外す際の雑音にも気付かれずに済みそうだ。鐘崎 らは盗聴器を外して部屋の隅に隠すと、敵の部屋から出されたワゴンごと布で覆って自分たちの部屋へと持ち帰ることに成功した。
部屋へ戻ると、既に源次郎 が春日野 の撮った映像を分析にかかっていた。まだこちらの存在には気付かれていないらしく、給仕に出ている間、特に変わったことはなかったそうだ。
「次の接触は昼メシの時になるか――。まあ昼は抜く可能性も考えられるから、遅ければ晩飯まで機会は無いかも知れん。ともかく、それまでに救出の手立てを考えよう」
「さっきの部屋にいた敵の人数は三人だったということだな。他にもこの船内のどこかに散らばってることも十分考えられるが、あの部屋に江南 氏がいるとすれば、とりあえずその三人を片付けて救出することも不可能じゃねえ」
ただし、救出が成功したとしても、無事にこの部屋まで連れて来られるかが問題である。
「仮にここまで辿り着けたとして、その後にこちらが江南 氏を匿っていることが知れた場合、おそらくドンパチは避けられんことが予測されるな」
「だろうな。とすれば――だ。逆に下船までの間は焦って接触せずに外濠を固める方が賢いかも知れん」
できることなら周 家の父や兄、そして鐘崎 の父である僚一 らと合流できれば動きようもあろうというものだ。
「俺の親父は既に台湾だ。氷川 の親父さんたちにしても我々とは乗船地も真逆だから、やはり台湾に着いてから本格的に事を起こすしかないかも知れん。それまでに敵の目的と、この船に乗っている敵の正確な人数を絞り込めれば――」
「そうだな。現段階で江南 氏を始末していないところを見ると、おそらく目的は彼の化学者としての知識と腕という線が強い。下手に刺激して危険を買うよりは、辛抱を強いられるが台湾に到着した段階で迅速に救出するという方が賢明か――」
周 と鐘崎 が今後の展開を巡らせる。確かにこの船の中でドンパチに持ち込まれれば、自分たちはともかく、他の乗客も巻き込んでしまうことになるだろう。まずは敵の人数と目的を絞り込めるところまで絞り込んで、事を起こすのは着港後にした方が現実問題として賢明といえる。
誰にとっても我慢の時が予想された。
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