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事態が予想だにしない方向に動き始めたのは、それから間もなくのこと――周 と鐘崎 の予想した通り、敵は昼食をルームサービスでとることはなかったものの、二等船室にいるはずの佐知子 と暸三 の姿が見えなくなったことで血眼になって二人を捜し始めたようだ。
「老板 、暸三 さんたちが泊まっていた部屋の付近に敵と思われる者数名がウロチョロし始めたことを突き止めました。ヤツらは船員に言って部屋の鍵をマスターキーで開けさせる動きを見せています」
李 からの報告で一気に緊張が走った。
「――ということは、江南 夫人とその息子が部屋に居ないことはすぐにバレるだろう。敵は本格的に二人の捜索に乗り出すことが予想される」
昨夜、甲板で暸三 を狙うも失敗に終わってしまった敵が、その後も暸三 らの所在を探っているということは、彼らにとって夫人と息子も拉致する心づもりでいるわけか。或いは二人は邪魔な存在として消されようとしているのかも知れない。
「ヤツらがあのデスアライブにまつわる組織であれば、我々が二人を匿っていることは既に見当がついているかも知れんな」
昨夜、落下物から暸三 を庇ったのは冰 だ。とするならその冰 についてどこの誰かということくらいはすぐに調べにかかったと見て間違いない。つまり、この船に周 や鐘崎 が乗船していることも突き止められたと考えるべきだろう。
「とすれば、今にも敵が乗り込んで来るやも知れん。できることならこの船でのドンパチは避けたいところだが、そうも言っていられねえかもな」
「源 さん、すぐに戦闘体制を敷いてくれ! 念の為、江南 夫人と暸三 の部屋は清水 と劉 さんで警護を頼む。それから――万が一敵に踏み込まれた際の一時的な措置として、江南 夫人と暸三 には変装をしてもらった方がいいかも知れん!」
鐘崎 の言葉を受けて、すぐに紫月 が夫人と暸三 の変装に取り掛かった。
「江南 夫人には男装をしてもらおう。真田 さんと同じく執事として俺たちについて来たことにすればいい。暸三 ちゃんはウチの組員ってことにして、ちっとばかし凄みのある若い衆に仕立てるべ」
夫人を白髪頭の男性に変装させ、暸三 には派手目な服を着せる。髪はグリースでオールバックに撫で付けて、いかにも極道の組員といった雰囲気に変えていくことにする。冰 も手伝って紫月 と共に素早く二人を別人へと変えていった。
「念の為、俺と春日野 はもう一度給仕係に化けよう。朝食の時のルームサービスでヤツらに俺たちの面は割れている。ここに踏み込まれた時に俺たちがいたところで、単なる給仕係としか思わんだろうからな」
鐘崎 と春日野 もまた、急いで白髪のカツラを被り、化粧も施して給仕係へと化けた。
とはいえ、敵にとっても事を荒立てず下船できるに越したことはないだろう。真っ向この部屋に踏み込んで攻撃を仕掛けてくる可能性は低いと思われる。変装は万が一に継ぐ万が一を考えての二重の策だ。
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