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ワゴンが停まると同時に、鐘崎 と男たちの会話から敵の位置を把握した僚一 が素早く飛び出しては彼らの意識を刈り取った。一部の隙も狂いもない、まさに超級の腕前はさすがという他ない。と同時に、鐘崎 はベッドルーム、春日野 もすぐにバスルームへと踏み込むべく迅速に散る。
バスルームに鍵は掛かっておらずすぐに開いたが、当然かそこに人の気配は無い。鐘崎 の方のベッドルームには鍵が掛かっていることから、敵はこの中と判断された。
(若 ! こっちは空です)
春日野 が身振りだけでそう伝える。
(ってことは――本命はこっちだな)
鐘崎 はサイレンサー付きの銃で素早く鍵を壊して踏み込んだ。
するとベッドルームのクローゼット前で拳銃を手にした男を発見。銃口をクローゼットの中へ向けていることから、江南賢治 が押し込められているだろうことを悟る。
敵の男は突然の侵入に驚いたわけか、すぐさま銃口をこちらに向けてきたが、鐘崎 は手にしていたトレンチをフリスビー代わりに投げつけて隙を作り、男の手にしていた銃を蹴り上げると同時にその場で意識を刈り取った。
クローゼットを開けると、そこには猿轡を噛まされた初老の男が一人。後ろ手に縛られて詰め込まれていた。
「江南賢治 先生ですね?」
鐘崎 が猿轡を外しながら問い掛ける。
「はい……」
苦しそうに咳き込んではいるものの、意識ははっきりとしていることに安堵させられる。
「ご無事で良かった。あなたを助けに参りました」
「助けに……。あの、では警察の方でしょうか」
「いえ、ご挨拶は後程。それよりご容態は? お身体が辛かったりするところはございませんか?」
鐘崎 が素早く縄を解く傍らで、ベッドルームへと駆け付けて来た僚一 の顔を見たと途端に、江南賢治 は驚きに大きく瞳を見開いた。
「……鐘崎 ……さん!」
どうしてあなたがここに? という様子で、しばしは上手く言葉にならないようだ。
「江南 さん、無事で良かった。事情は後で詳しくお話しましょう。それより今しばらくここでご辛抱願います。敵がまだこの船内にいるやも知れませんので」
「え、はあ……承知しました」
僚一 は息子と春日野 の二人にこのまま江南賢治 をベッドルームにて警護するよう指示して、次なる敵を迎え撃つべく一旦部屋を後にした。
リビングに戻ると、既に周 と李 が僚一 の狩った男二人を簀巻きにし終わっていた。
「僚一 ! こっちは片付いた。あとは敵がこの部屋へやって来るかだが――」
「ご苦労! すぐに源 さんに動きを確認する」
船内すべての監視カメラ映像に合わせて、人体の温度で移動の様子を測るサーモグラフで源次郎 が各部屋の追跡を続けているはずである。しばらくすると僚一 らのいる部屋に男二人が向かっているとの情報が届けられた。
「よし。その二人を迅速に狩る。その後の動きが見られないようであれば、江南 氏を連れて部屋へ戻ろう」
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