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 それから半刻後、一等船室にやって来た敵の仲間二人を拘束し終えた僚一(りょういち)らは、江南賢治(えなん けんじ)を連れて自分たちの部屋へと戻っていた。源次郎(げんじろう)の調べで、現在この船に乗り込んでいる敵は既に確保し終えた男五人であることが分かってきた。 「あとは台湾へ着いてからヤツらの仲間がどう動くかだが――現段階でこちらが捕らえた五人が我々の手に落ちていることを知るのは難しいはずだ。台湾へ入港したと同時にヤツらの仲間が迎えの車を用意して待ち受けているだろうから、その時点で交戦が始まること念頭に置いておいてくれ」  僚一(りょういち)らはひとまず江南賢治(えなん けんじ)に今回の拉致についての経緯を訊ねることにした。 「佐知子(さちこ)……いや、奥方とご子息の暸三(りょうぞう)君については心配ありません。先程この船からヘリで脱出させ、信頼できる我々の仲間が一足先に台湾へとお連れすることになっています。向こうでは仲間の保護下にてお二人には安全な場所で待機していただけますので」 「鐘崎(かねさき)さん……申し訳ない。まさかここであなた様にお会いできるとは思ってもみませんでしたが、ご助力に感謝いたします」  この通りです――と、江南(えなん)は深々頭を下げた。 「ところで、今回博士を拉致した相手ですが――。やり口を見る限り素人ではないと思われます。敵の目的はあなたが開発なされた解毒薬ということですが、彼らについて何かお心当たりはお有りか?」  僚一(りょういち)が訊くも、江南(えなん)は弱々しく首を横に振ってみせた。 「私を拉致した方々がどこの誰かということは正直なところ分かりません。ただ、今回私を拐った彼らの要求は、解毒薬を他へ流さず自分たちに引き渡しせとのことでした」 「――ふむ、なるほどな。とすれば、敵は例のDAと解毒薬をセットにして闇ルートで荒稼ぎが目的ということか」  薬物の価値はそれが人体に及ぼす劇薬の場合、解毒薬が有る無いでは価値に大きな差が出る。ましてやこれまで誰もが辿り着けなかった解毒薬の権利ごと手に入れられれば、莫大な金の卵となることは明らかだからだ。 「開発者である化学者――つまりあなたを牛耳れば、同じ目的を持つ闇組織の中でも群を抜いて優位に立つことができる。あなた方ご家族が再三に渡って狙われ続けてきたということは、今回の拉致犯以外にも同じ目的であなたの解毒薬を手に入れたい者たちがいると見るべきですな」  つまり目的は金だ。江南(えなん)にしてもそれ自体はおおよそ見当がついていたようだ。 「あのDAについては既に生産が禁じられて久しい。とはいえ、その気になれば作ること自体不可能ではありません。薬の成分とそれを扱える化学者が揃いさえすればいくらでも生産はできる……。ましてや解毒薬とセットにすればそれを悪用しようとする者がいても不思議はありません」  ゆえに江南(えなん)はDAの構造自体をこの世から抹殺し、既に存在している薬の解毒薬を開発することに人生を捧げようと思ったのだそうだ。

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