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「ところで親父――。この船に乗っている例の五人、拉致の実行犯はおそらく下っ端連中だろう。ヤツらを牛耳っている頭がいるはずだ」  それを押さえなければ今後もまた同じことが起こるだろうと鐘崎(かねさき)が懸念する傍らで、僚一(りょういち)からは既にそちらの捜索にも手が回されていることが明かされた。 「それについては今現在台湾でメビィのチームが動いてくれている」 「メビィというと――あのメビィか?」 「ああ。六条女雛(ろくじょうの めびな)、以前お前を嵌めようとした例のメビィさ」  僚一(りょういち)はニヤっと不敵な笑みで応えた。 「彼らのチームもちょうど楊礼偉(ヤン リィウェイ)の披露目に呼ばれていてな。既に台湾入りしていたので手を貸してもらうことにしたのだ」  そんな話をしていると、タイミング良くか当のチームから僚一(りょういち)宛てに朗報が舞い込んできた。 「グッドタイミングだ。チームのボスの話によると、敵の頭らしい男の目星がついたようだぞ。メビィが高級ホステスを装って網を張っていたところ、ここ最近で莫大な財源を手にできると嘯いている男に突き当たったそうだ。使える化学者を手に入れたとかで、薬物で一儲けできると意気揚々だそうだ」  化学者に薬物――とくれば、今回の江南賢治(えなん けんじ)の拉致と無関係とは思えない。僚一(りょういち)の話では、敵の頭と思われる男がホステスに扮したメビィにご執心の様子だそうで、これから大金が入ることを仄めかしては彼女の気を引こうと躍起になっている様子だとのことだ。 「――そうか。さすがにメビィだと言いてえところだが……このままだと彼女に危険が及ぶことも考えられるな」  鐘崎(かねさき)が危惧を口にする。僚一(りょういち)もまた、その通りだと同調の意を示した。 「遼二(りょうじ)の言う通りだ。敵の頭という男がメビィを手に入れようとするのは目に見えている。とにかくはその男に行き着いただけでメビィは充分に役割を果たしてくれた。今のところはまだ彼女が裏の世界のエージェントだということはバレていねえようだが、それも時間の問題だろう。台湾へ着いたらすぐにも彼女の救出に当たりたい」  と同時に、こちらが捕えた拉致の実行犯たる五人は(ヤン)一族の地下施設で一時預かって拘束してくれるそうだ。 「五人が(ヤン)家の手中に捕われていることはそう簡単には突き止められんとは思うがな。敵も一応はプロだ。この船で五人が消息を絶ったことが知れれば、乗船客の中に(ジォウ)ファミリーと我々鐘崎(かねさき)組が乗っていたことは遅かれ早かれ突き止めるだろう。ましてや台湾では楊礼偉(ヤン リィウェイ)のデカい披露目が予定されている。我々の乗船目的と入港後の居場所は簡単に想像がつく」 「――だろうな。とすれば、船が台湾に入港して間もなく敵からの襲撃があると見て間違いねえってわけだな」 「それを見越して当初泊まる予定だったホテルは既に変更済みだ。我々は(ヤン)一族が秘密裏に所持している別荘に身を寄せさせてもらえることになっている」  さすがは僚一(りょういち)だ。先の先まで読んだ行動には余念がない。 「台湾へ着いたら(イェン)(リー)遼二(りょうじ)紫月(しづき)春日野(かすがの)でメビィの救出に当たってくれ。念の為、怪我人が出た場合を想定して鄧浩(デェン ハァオ)にも同行してもらいたい。うちの清水(しみず)(イェン)のところの(リゥ)、二人には台湾に残ってもらい、この船で捕えた五人を(ヤン)一族の地下施設に運んで監視を頼みたい。俺と(げん)さんは周隼(ジォウ スェン)と連携して、遼二(りょうじ)らの援護方々、メビィが突き止めた敵の頭を狩ることにする」  僚一(りょういち)によってそれぞれが入港後に担う役割が言い渡された。

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