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台湾――。
船が入港すると同時に、いよいよ敵との対峙に向けて男たちは動き出した。予定通り劉 と清水 の二人で楊 一族の側近たちと連携し、船内で捕えた五人を監視。江南 は先に台湾入りしていた佐知子 と暸三 とも無事に再会でき、楊 ファミリーによる保護下にて安全が約束されることとなった。ひとまず楊 家の別荘で再会を果たした一同だが、鐘崎 の姿を見るなり暸三 が飛んで出迎えにやって来た。
「遼二 兄さん! 紫月 兄さん! ご無事で何よりです! 父さんを助けていただきありがとうございます!」
「暸三 、お前さん方も無事で良かった。よくお袋を護ってくれた」
「はい! 張敏 さんや楊礼偉 さんたちにたいへん良くしていただいて。お陰で母も自分もこの通り無事です」
江南 もまた、妻と息子の無事な姿に安堵しつつ、暸三 が誰よりも先に兄である鐘崎 に声を掛けた様子を見て瞳を細める。出会ったばかりとはいえ、父である自分よりも兄の元へ駆け付ける姿を見ていると、やはり彼らの間にはしっかりとした血の絆が存在するのだということが嬉しくもあるのだった。江南 はまた、張敏 や楊礼偉 に対しても心からの礼を述べた。
そんな中、張 から少々急を要する事柄が告げられる。
「敵の頭を炙り出したメビィ女史だが、ことの外気に入られてしまったようでな。つい先刻、頭の男に連れられてこの台湾を出たことが確認された。行き先はバリのようだ」
「――! バリだと?」
「今はメビィ女史のチームが彼女らを尾行中だ。おそらく敵はまだ僚一 さんたちが捕えた五人の状況を知らないと見える。船内で江南 博士の拉致が成功したことまでは既に把握済みだろうから、元々落ち合う場所をバリと決めていたのかも知れんな」
「ということは――敵の本拠地はバリか」
「間違いないだろう。キミたちが入港するまでにこの楊礼偉 の協力で調べたところ、頭の男の素性が分かってきたのだよ。名はサクチャイ。国籍は不明だが、おそらくタイ人と思われる」
張 の話では、サクチャイはタイを拠点に東南アジア各国を転々として、闇の活動を広げていっているらしい。組織としては左程大きくもないらしいが、ゆえに江南 博士の開発したDAの解毒薬を皮切りに一気に組織の拡大化に乗り出そうという思惑らしい。
「つまり――狩るならこの機をおいて他にないというわけだな」
是が非でも今この時にとどめを打たなければならないと僚一 は意気込んだ。
「では遼二 。お前さんは焔 たちと共にバリへ飛んでくれ。敵の手に落ちる前にメビィを救い出すのだ。俺は周隼 と落ち合い次第、お前たちの後を追う」
「分かった。状況は逐一報告する!」
こうして鐘崎 と周 、紫月 に李 、春日野 、鄧 の六人がバリへ向けて出発することとなった。冰 は真田 と共に楊 家へ残り、何かあった際には清水 と劉 で警護を担うこととする。楊 家に居ればひとまずは安心であるし、張敏 らも邸に残る。周 にとっても憂いなくバリへ飛べるというものだ。
「白龍 、くれぐれも気をつけて」
「ああ。心細い思いをさせるが、真田 らと一緒に帰りを待っていてくれ」
「うん――! こっちは楊 さんや張 さんもいてくれるから心配ないよ。帰りを待ってるからね」
楊礼偉 の披露目の日まではあと三日――。それまでには何としてもカタをつけるべく男たちはそれぞれの担うべき荷を遂行すべく、各所へと散っていったのだった。
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