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バリ島――。
鐘崎 らは現地に着くと同時にメビィのチームと合流。現在彼女はサクチャイの隠れ家と思われる山間部の別荘に潜伏しているとのことだった。
「遼二 殿、周焔 殿! ご足労をお掛けしてすまない。ご助力に感謝する」
チームのボスが安堵の表情で出迎える。
「いや、こちらこそ我々のことで皆さんにお骨折りいただいて恐縮です。それでメビィは――彼女は無事なのですか?」
敵の頭であるサクチャイに気に入られてこんな所まで連れて来られたからには彼女の身の上が気に掛かるところだ。特には貞操に関してだが、裏の世界の任務にそれも含めて必要な要素とはいえど、できることなら色を穢されるような事態は避けたいというのが鐘崎 や周 の願うところだ。
「ご心配いただき恐縮です。お陰様で今のところはメビィも上手く立ち回っております。彼女には決して安売りしない高級ホステスということでサクチャイという男に近付かせておりますゆえ」
チーム曰くメビィには素性がバレぬよう『アンジェラ』という源氏名を使ってサクチャイに近付かせたとのことだった。
「そうでしたか。迅速なご対応に感謝します! 早速ですが別荘へご案内いただけますか?」
「はい。ではお車へどうぞ」
空港から走ること小一時間。現地に着くと、当のメビィからタイミングよく連絡が入ってきた。
『ボス、こちらメビィ』
「ご苦労。ちょうどこちらも鐘崎 さん周 さんと落ち合えたところだ。今、お前さんのいる別荘が目視できる林の中にいる」
『あら! それは心強いわ。遼二 さんと周焔 さんたちもいらしてくれたのね』
「メビィ、すまない。世話を掛ける」
鐘崎 が通話の横から彼女の無事を確かめる。
「声の調子だと無事のようだが――できる限り早く救出に向かうから、もうしばし辛抱してくれ」
『ありがとう遼二 さん! それよりちょっと厄介なことになったわ。あなたたちが船で取り押さえたっていう五人だけど、彼らとの連絡がつかないことであの男――サクチャイが苛立ち始まったの。予定ではとうにこの別荘に着いているはずだって。今、彼は状況確認の為に五人の行方を必死に追っているわ』
「お前さん、今一人か? ヤツは一緒じゃないのか?」
『ええ。彼らは別荘一階のリビングに集まって対策を話し合ってる。アタシは二階の寝室で待つように言われてて、今は一人よ。あの男の見解では五人が裏切ることは有り得ない、考えられるのは計画に外から何らかの邪魔立てが入ったと踏んで、台湾に残っている仲間に連絡を取ってる様子よ。船に周 一族と鐘崎 組が乗っていたことは既に突き止めたようだから、台湾であなたたちの所在を調べ始めるようよ』
「――分かった。そちらの方はすぐに手を打とう。それより別荘に敵が何人いるか分かるか?」
『ええ。サクチャイと――彼の手下が五人ほど。それから運転を専門に担当している男が三人、多くてもサクチャイを含めて全部で十人といったところかしら。他にも調理や掃除をする使用人が数人いるけど、彼らは地元で雇われた堅気の方たちのようね』
「十人か。狩れない人数ではないな。もうすぐ親父たちもやって来ることになっているから、そうしたら一気に踏み込む。その前にお前さんは別荘を抜けられるか?」
『そうね。あの男は今、船に乗っていた五人の捜索に必死の様子だから、アタシに構ってる暇はないでしょうね。出ていこうと思えばタイミング的にはいいけれど――ただ、庭に大型犬が放たれているのが少々厄介ね』
吠えられれば抜け出すのは困難だろう。
「犬か――。何匹いるか分かるか?」
『目視できるだけで三匹といったところよ』
「――分かった。ではその犬たちを利用させてもらおう」
鐘崎 は言うと、早速メビィの救出に向けて動き出した。
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