103 / 118
34
「メビィ、こちら鐘崎 だ。準備は万端だ。始めてくれ」
『了解!』
鄧 と春日野 で特製ミミズなる代物を庭に放り込み、上手いこと犬たちが引っ掛かったところでメビィは大声を上げた。
「キャアー! 助けてー! サクチャイ! サクチャイ! 早く来てちょうだい!」
鐘崎 らの待機している林にまでその叫び声が聞こえてくるほどの絶叫で、メビィは必死の演技を繰り出している。さすがといったところか。しばらくするとサクチャイが手下を引き連れて彼女の部屋へとやって来たのが、開け放たれたバルコニーの窓越しに目視できた。
「何の騒ぎだ! アンジェラ!」
「サクチャイ……! あなた……! 助けてちょうだい! いきなり犬たちが襲ってきたのよ……。アタシもう怖くて……」
早くなんとかしてちょうだい――! と、彼女の言葉通りに犬たちはバルコニーを見上げながら今にも飛び掛からん勢いで吠え続けている。鄧 と春日野 がバルコニーの手すりギリギリに上手いこと例のミミズを放り込んだ賜物だ。犬たちの興奮状態に、さすがのサクチャイも驚いて目を剥いているようだった。
「何だって急に……。おい、早いとこ庭へ降りてヤツらを何とかしねえかッ!」
サクチャイが手下たちに指示するも、その彼らとてどうしたらいいかと尻込み気味だ。
「しかしボス……犬たちを殺 っちまうのはまずいわけですよね……」
「当たり前だッ! 捕まえて犬舎へ入れればいいだろうが!」
「はぁ……ですがあの様子じゃ、下手に近付けばこっちが食い付かれそうですわ。丸腰で犬舎に入れるのは無理ってもんですぜ」
「バカを言えッ! 犬たちに傷ひとつ付けやがったら、てめえらの首を掻っ切ってやるぞ!」
とにかく早く行ってなんとかしろと、サクチャイは苛立つ表情で腹立たしい声を上げている。
「しかし……何だっていきなり吠え始まったんだ。見たところ侵入者があったわけでもなさそうだが……。こんなこと今までで初めてだ……」
それよりもアンジェラはどうした? と、サクチャイがメビィを気に掛ける。
「あの女は怖い怖い騒いで逃げていきましたぜ! どうせ上の屋根裏部屋にでも逃げ込んだんでしょう」
「……チッ! まあよい……。とにかく犬たちを捕まえて犬舎へ入れるんだ」
そう言っている傍らでは犬たちが猛り狂ったように吠え続けてはバルコニー目掛けて飛び付いてくる勢いでいる。
「クソッ……こんな時に厄介な……」
サクチャイとて凶暴な犬たちを目の当たりにして、さすがに腰が引けているようだ。
「……殺したくはないのだが……。お前たち、始末されたくなければおとなしくしろ!」
犬に向かってそう叫ぶも焼石に水だ。
その間、使用人たちを引き連れて密かに裏口へと回ったメビィは邸からの脱出に成功。無事にチームによって保護された。
と同時に、鐘崎 らの方では台湾で捕捉されている五人から連絡を入れさせる。目論見通り、サクチャイらは五人と落ち合えることに安堵した様子だった。
「仕方ねえ……犬たちはしばらく放っておけ! 窓をしっかり閉めて絶対に邸の中へ入れさせるな!」
その内、落ち着くだろうと言ってサクチャイはリビングへと戻って行ったようだ。
その後、ミミズの効果が切れて犬たちが静かになった頃、ようやくとメビィらがいないことに気付いたようだった。
ともだちにシェアしよう!

