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「クソ……ッ! 命を取られるか、あるいはヤツらに拘束されるか……道は二つに一つしかねえようだな。こうなったら……今手元にあるDAでヤツらに一泡吹かせてやる……! 三日後に台湾で開かれる楊礼偉 の披露目、そいつを恥にまみれさせてやろうじゃねえか!」
「……そりゃいったいどういう意味です? まさかヤツらにあのDAを盛ろうってんですかい?」
そんなことが上手くいくのかと手下たちは不安顔だ。
「ヤツらに盛るのはさすがに無理があろうな。不甲斐ないことだが、マフィアのトップ連中に直に近付ける伝手 も機会も無え。だが――」
サクチャイは方法なら他にもあると言って苦い笑みを浮かべてみせた。
「外の様子が気になる――。犬たちをけしかけたのが周 と鐘崎 組の連中だとすれば、既に邸の周囲は完全に包囲されているはず」
「……そんなッ! じゃあ……どうするんですかい。逃げる道も絶たれたってことですかい……?」
「――今ここを出ればヤツらの思う壺だろうな……。下手に応戦しても勝ち目はあるまい。ここはひとつ、おとなしく拘束されるしかあるまい」
「拘束って……! それじゃ我々は終わりじゃないスか!」
「慌てるな。もちろんヤツらの好きにはさせねえ……。だが、今ここで抵抗してむざむざ命を落とすか、仮に生き永らえたとしても手負になることは目に見えている。だったら――ひとまずヤツらに捕まって、脱出の機会を探るしかねえ」
「脱出って……それこそどうやって」
「まあ見ていろ。俺に考えがある――。それにはできる限り体力を温存したい。今ここにいる我々十人、誰ひとりとして手負にならずに拘束だけされれば、ヤツらとてそんなに酷え仕打ちはしねえはず。香港の周隼 ってのは温情のあることで有名だ。こちらがおとなしくさえしていれば、拷問のような目に遭うことはねえ」
ましてや命を取られることもないだろうとサクチャイは言った。
「けど、ヤツらに捕まっちまえば簡単には逃げられねえですぜ。いくら温情があるっていっても、我々を許して自由にしてくれるなんてことは考えられやせん! そりゃ……殺されたりはしないかも知れやせんが、どっちみちヤツらの監視下で何かやべえシノギにでも使われるか、マフィア連中の下っ端としてこき使われるか……」
どのみち厳しい末路は目に見えている――と、手下たちは焦り顔でいる。
「ふん! 誰がヤツらの下っ端になんぞなるもんか! 考えがあると言っただろう。裏の世界の連中なんてのは誰もがてめえ以外を信用してねえヤツらの集まりだ。周 や鐘崎 だって表向きは懇意にしているようだが、常に相手に出し抜かれねえよう腹の中は見せ合わねえに決まってる。そいつを上手く利用させてもらうのさ」
サクチャイは、とにかく抵抗せずにおとなしく捕まって時期を待てと手下たちを宥めたのだった。
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