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その後、そう時を待たずして鐘崎 らの元に僚一 と周隼 が到着。精鋭軍団に踏み込まれて、サクチャイ一味は別荘を後にする余裕もなく全員が拘束された。
「一先ずは台湾へ連行だ。後のことは例の五人と合わせて処置をする」
周隼 らに捕まったサクチャイは、意外にもおとなしく拘束され、反抗の素振りも見せずに台湾へと連行された。その殊勝ともいえる態度が気に掛かるところではあったが、とにかくは解毒薬が彼らの手に流れなかっただけで良しとする。
ところが――だ。
台湾へと戻った一行を驚かせる出来事が待っていようとは、さすがに予知できなかった。なんと、楊礼偉 の襲名披露の席で催されるカジノイベントにて腕を奮うことになっていたディーラーが謎の病に倒れてしまったというのだ。
ディーラーは四十歳に近い男で、楊 家が所有するカジノ一の腕前を持った精鋭らしい。今回のイベントではルーレットを担当することになっていたそうで、賭けに参加することになっている裏社会の大物に花を持たせる役目を仰せつかっていたとのことだった。早い話がイカサマでその大物の客を勝たせて喜ばそうということだったらしい。とはいえ、襲名披露のイベントという名目であるゆえ、参加者もそれがイカサマであることは既に承知らしい。勝負の行方云々以前に楊 家のディーラーの技を観覧するというのが本来の目的のようだ。
「……ッ、まずいことになった。カジノで近隣組織の偉いさんに花を持たせるのは代々襲名披露での慣わしなのだ。うちのディーラーの中では彼と並ぶ腕の持ち主はいない……」
さて、どうしたものかと礼偉 は困惑顔だ。
「楊礼偉 、そのディーラーだが――」
「病状はどういったものなのだ」
周隼 と僚一 が訊く。
「それが――医師曰く、身体的には特に急を要する症状が見当たらないそうで……。ただ覇気が無く、ぼうっとしていて会話もままならないとか。どうやら自分がどこの誰だかも分からないらしく、記憶喪失の一環ではないかというのが医師の見解です」
「記憶喪失――か。ひょっとすると」
例のDAでも盛られたのではないだろうか――。誰の脳裏にも同じ疑惑が浮かんだ。
「バリで拘束したサクチャイ一味だが、えらく簡単に我々に捕まったことが気に掛かる。もう少し抵抗があると踏んでいたのだがな」
下手をすれば撃ち合いに発展するだろうことを念頭において踏み込んだのは事実だ。だが、サクチャイらは気が抜けるほど呆気なく拘束された。
僚一 は、別荘へ踏み込んだ際にサクチャイらが割合おとなしく手に落ちたことが引っ掛かっているようだ。
「逃げらないと踏んで素直に捕まった――というのは一理ある。抵抗した挙句、手負になるよりはその方がマシと考えたのかも知れんが、サクチャイにとってはDAで一儲けしようという思惑を潰されたことになるわけだからな。報復を考えたとしても不思議はない」
「報復か――。考えられなくはないな」
周隼 も僚一 の意見に同意のようだ。
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