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「江南 博士――たいへん有り難いお申し出だが」
本当に力になっていただけるのだろうかと、礼偉 も楊 ファミリーもすがるような顔つきを見せる。
「は――、解毒薬に関してはお役に立てることと存じます。薬を投じた後で何かあればすぐに対応できるよう、私がディーラーさんに付ききりで様子を見させていただきますし――」
ただし、投与後、彼が元通りに快復するまでには多少の時間が必要だという。
「順調に成功したとして、少なくとも一時間――人によって差がありましょうから、もしくはそれ以上掛かる可能性もございます」
最悪はもっと時間を要するということも念頭に置かなければならない。
「――では、状況に合わせた手順を幾通りか考えておこう」
すぐさま僚一 がイベントのスケジュール調整をすべく、予定されていたタイムスケジュール表を卓上へと広げた。
「まず、非常に順調に解毒薬が効いた場合だ。ディーラーが完全に快復して、普段通りブースに立てるようになるまでの時間を二時間と決めよう。その間、披露目の余興として用意されているこのショーを先に持ってきて、ルーレットのイベントを予定よりも後へずらす。礼偉 、ショーの時間は一時間となっているが、なんとかしてもう一時間引き延ばすことはできんか?」
「――そうですね。ショーは台湾で人気の歌い手に依頼してあるのですが、タイムスケジュールは既に招待客ら全員に通知済みです。あまり長くなり過ぎれば、要らぬ思惑を抱かせる結果になり得るかと」
今から別の、例えば雑技団の演目などを入れられればいいのだが、さすがに数時間後に始まるイベントに急遽出演してくれといっても難しいかも知れない。と、ここで冰 が名案を思いついたようだ。
「あの……でしたらこういうのは如何でしょうか。ディーラーさんのイベントはルーレットということでしたよね? それならカードゲーム、例えばポーカーなどで私がディーラーをさせていただいて、賭けに参加したお客様に楽しんでいただくというのでは……」
その際、ルーレットに参加する予定の近隣裏社会の大物とは別の一般招待客にゲームに参加してもらい、前座のような感覚で軽く楽しんでもらえばどうだろうと言う。
「そいつは名案だな。だったらうちの焔 や僚一 のところの遼二 と紫月 にでも参加してもらえばいいんじゃないか?」
それなら冰 もやり易かろうという隼 の提案に皆もうなずく。
「よし、ではそれで決めよう。歌手のショーがハネたら冰 のカードゲームで一時間を潰してもらう。次に解毒薬が効くのにもっと時間が掛かった場合と――、最悪はディーラーの快復が全く見込めなかった場合だ」
「その際は最終手段だ。冰 にそのままディーラーとしてルーレットも担当してもらう――しかなかろう」
僚一 と隼 が真剣な眼差しで冰 を見つめる。頼めるだろうかという意味だ。冰 は僭越ながら精一杯やらせていただきますと言ってうなずいた。
「本来のディーラーさんがどのようにゲームを運ぶことになっていたのかをお教えいただけましたら」
それについては楊礼偉 が事細かに手順を伝えていくことになった。
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