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その後、江南 は鄧 兄弟と楊 家の専属医師らも交えてDAを盛られた疑いのあるディーラーの治療に取り掛かった。その間、冰 の方では楊 家のカジノで使われているカードとルーレットの台などを念入りに確認する作業が進められていく。それと同時に倫周 の手で冰 への着替えやらメイクも施されていく。新人ディーラーとして冰 の素性は明かさずに、周焔 の連れ合いということも伏せる。一見、冰 とは全く違う外見になるよう倫周 のメイク技術で別人へと変えていくのだ。冰 の腕前は秀逸といえるだけに、万が一にもその腕前に目をつけられて後々の拉致などに巻き込まれないよう事前に芽を摘み取る為だ。
また、楊 家ではサクチャイらの残党がイベントに入り込んで来る可能性も視野に入れて、会場の警備体制を更なる強固に整えていく。披露目のイベントが開始されるまで残すところ数時間――。全員が手分けをして準備に専念し、時間はあっという間に過ぎていった。
◆ ◆ ◆
楊 家、医務室――。
「江南 博士、塩梅はどのようだろう」
イベント開始を目前にして、僚一 と隼 が医務室を訪ねて来た。
「鐘崎 さん、周 さん! お陰様でこの通りでございます」
高揚と安堵が入り混じった表情で江南 が声を震わせていた。その傍らでは鄧 兄弟が朗らかな笑みを浮かべて二人を迎える。
「経過はすこぶる順調です。さすがは江南 博士です!」
見ればディーラーは既にベッドの上で起き上がっていて、曖昧だった記憶もすっかり元通りに取り戻せたとのことだった。
「体調的にも問題は無いようで、あと二時間もあれば完全に快復できるでしょう」
現段階で体調、記憶、気力ともにすっかり取り戻した状態のようだ。あとは実際にルーレットの台で感覚を取り戻し、着替えなどの身支度を整えるだけだ。歌い手によるショーが一時間と冰 によるカードゲームの余興が一時間。合わせて二時間もあれば完璧だということだ。
「そうか。良かった」
「江南 博士、よくやってくださった。この通り、礼を申し上げる」
僚一 と隼 に深々頭を下げられて、江南 は恐縮してしまった。
「では我々は一足先に会場の警備に加わるとしよう」
「鄧海 、鄧浩 、後を頼んだぞ」
「は! お任せください」
江南 と楊 家の医師団、鄧 兄弟に後を任せて、僚一 らは会場へと向かった。
それから一時間後、カジノでは台湾きっての人気歌手によるショーが済み、会場は大賑わいを見せていた。少しの休憩を挟んで、次はいよいよ冰 による前座の始まりである。倫周 の手で精悍な青年ディーラーへと変装を遂げた冰 がブースに姿を現すと、楊 家の進行役によるアナウンスが会場内に響き渡った。
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