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「ご来場の皆様、これよりは楊礼偉(ヤン リィウェイ)襲名披露カジノイベントとして、まずは当家若手ディーラーによるカードゲームの前座をお楽しみくださいませ。続いて本披露目きってのメインイベント、ルーレットゲームをご堪能いただきます」  カードゲームのブースにスポットライトが当てられ、若手ディーラーと紹介された(ひょう)が浮かび上がる。ゲームに参加するのは(ジォウ)鐘崎(かねさき)、そして紫月(しづき)の三人だ。彼らも年若いながら裏の世界では知れた顔であるといえる。楊礼偉(ヤン リィウェイ)とも普段から懇意にしていることは周知なので、来場客たちも興味を引かれてブースの周りに集まって来た。 「ほう? 前座とな。参加者は周隼(ジォウ スェン)のところの次男坊と――日本の鐘崎(かねさき)組の嫡男夫婦か」 「ほほ、(ヤン)家もなかなかに粋な采配を見せたものじゃな。本番のルーレットゲームに参加するのは上海の頭領とその後継と言われている長男夫婦じゃったな」 「香港の(ジォウ)家からはファミリー長男坊の周風(ジォウ ファン)夫婦が参加することになっておるようじゃ。その他、アジア諸国の組織からも参加者は皆、楊礼偉(ヤン リィウェイ)とも同世代の次期頭領後継者と聞いておるぞ」  高年の者たちが微笑ましげな様子で会話を交わしている。昨今はちょうど代替りの組織が多く見られるようになってきた時期だ。皆、次代を担う若者たちに期待を馳せつつ温かく見守ろうという雰囲気が感じられる。  そんな中で(ひょう)らのカードゲームが始まった。まずはごくごく普通にゲームが進められてゆき、(ジォウ)が勝ったり鐘崎(かねさき)紫月(しづき)が優勢となったりと、和気藹々の内に前半が過ぎていった。  取り立ててどこがどうといったゲームでない進み具合ではあったが、なにせ(ジォウ)鐘崎(かねさき)ら男前揃いの三人のことだ。テーブルに腰掛けているだけでも目を引くのは確かだし、ギャラリーの中――特には若い女性陣であるが――彼女らにとっては間近で男前軍団を見られるというだけで満足といった表情の者も多い。それ以外の高年者らもこうして若い世代が順調に育ってきているのだなぁというような視線で、微笑ましげに見守っているといった調子である。和やかな雰囲気の中、残り時間もあと少しとなった頃だった。ブースの後方でゲームの行方を見ていた張敏(ジャン ミィン)から、あとワンゲームでいよいよルーレットイベントの時間だという合図が送られてきた。  それを機に、(ひょう)は目の前の三人に目配せをすると、前座ラストのゲームを告げた。そして、これまでは見せなかった少々派手目なカード捌きを披露し始める。五十二枚のカードの束をまるでアコーディオンの如く卓上で一気に扇状に開いたと思ったら、次の瞬間には寸分違わずといったくらいビシっと一束にまとめては、視線で追えないほどの速さでシャッフルに入る。そのカード捌きは流麗でありながら粋で美しい。それまでは何とはなしに見ていたギャラリーたちも、驚きを隠せないといったふうに一瞬で視線を奪われたようだ。  (ひょう)は頭上高くにカードの束を掲げると、それこそアコーディオンが開いて縮むような――とでもいおうか、まるですべてのカードが繋がっているのではというような錯覚を思わせる仕草でシャッフルを終えた。そのまま流れるような手つきでカードを五枚ずつ三人の目の前へと配る。と同時に、(ひょう)は自らの手元にも五枚のカードを残しては、『さあ、勝負といきましょう』というように薄く微笑んでみせた。

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