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それを合図に周 ら三人が手元のカードを開いて確かめる。賭け金が出揃ったところでいざ勝負と相成った。まさかこの直後にカジノ内の調度品やシャンデリアが振動で壊れるんじゃないかというくらいのどよめきと歓声が上がることになろうとは、その場の誰もが想像すらしていなかった。
まず、手元のカードを裏返して不敵な笑みを浮かべたのは周 である。
「悪いな。どうやらこの勝負、俺がいただいたようだ」
カードの目はなんと――! ダイヤのロイヤルストレートフラッシュであった。
それを見たと同時にギャラリーたちからは信じられないといったふうな歓声が上がったのは言うまでもない。周 にしてみても、冰 が亭主の自分に華を持たせてくれたのだと思ったようだ。機嫌は上々、隣の鐘崎 と紫月 に向かって、『まあ今回は俺に花形を譲ってくれ』といわんばかりの得意顔でご満悦だ。
ところが――だ。
「悪いな――というのは俺のセリフかも知れん。そうは上手く問屋が卸さねえようだぞ」
周 を上回る不敵な笑みと共に鐘崎 がそう言いながら開いたカードは――。
「スペードのロイヤルストレートフラッシュ」
立て続けにそんな神の目が揃った時点で場内は大わらわである。ゲームを見ていなかった者たちまでもが続々と集まって来ては、まるでおしくら饅頭と化していった。
「冗談だろ……? まさか柄違いのロイヤルストレートフラッシュだなんざ」
「イカサマじゃねえのか?」
「……まあ、この後のルーレットも元々はイカサマ有りきのショーイベントだとは承知だが……。まさか前座のカードゲームでもショー要素を盛り込んでいるってわけか?」
「それにしてもあのディーラー、見たことのない顔だが……いったいどこであんな神業を振るえるディーラーを調達してきたんだ?」
「楊 ファミリーのカジノの新人ディーラーか?」
「まさかだが……三人目の客のカードもロイヤルストレートフラッシュ――なんていうんじゃあるめえな?」
ところが正にその通りだった。紫月 が開いたカードはハートのロイヤルストレートフラッシュで、それを見た瞬間に場内はまるで暴動のような大騒ぎと相成った。テーブルの周囲では人だかりで見えないと踏んだ者たちが場内を見渡せる二階の欄干部分や階段の手すりから身を乗り出すようにして冰 らのいるブースを覗き込んでいる。三人の参加者すべてに柄違いのロイヤルストレートフラッシュを見舞った若きディーラーを、いったい何者だといったふうにして大騒ぎだ。それだけでも卒倒ものだというのに、極めつけか、冰 が最後に自らの手元に残した五枚のカードを裏返した瞬間、どよめきで建物内の壁が軋むほどの歓声が湧き上がった。
「冗談だろ!? クラブのロイヤルストレートフラッシュだとー!」
うぉおおおーという発狂にも違わない雄叫びがカジノ内に轟き渡る。例えショー有りきのマジックだとしても前代未聞の完璧さだ。
冰 は胸前に手を当てて深々と紳士的な一礼をすると、迎えにやって来た張敏 らに周囲を守られながら裏手へと引っ込んでいった。
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