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 その後、興奮のままにメインイベントであるルーレットゲームに突入。江南(えなん)博士らの懸命の介抱によってすっかり正気を取り戻した(ヤン)家のディーラーもまた、期待通りの神業を披露してイベントは大団円の中、無事にお開きを迎えることができたのだった。  披露目に呼ばれた招待客たちは前座・本番共に見事という外ないショーに大絶賛である。だが、誰しもこれがイカサマ有りきのショー的なイベントと知った上でのことなので、それを無事にやってのけた二人のディーラーたちを讃えて歓喜した。  (ひょう)が行った柄違いのロイヤルストレートフラッシュも、始めからカードが束ねてあって、それをいかにも神業に見せ掛けたマジック要素なのだろうという噂が飛び交った。実はカードが束ねてあったわけではなく、正真正銘それは(ひょう)の信じ難い達人の腕前であったなどとは誰一人思っていない。まあ、ショーの一環としてのマジックだと思ってもらった方が(ひょう)にとっても好都合なのは事実で、そうでなければいつぞやの張敏(ジャン ミィン)のように、その腕前を手に入れんと狙われる羽目になっても敵わない。だからこそブースに立つ際には別人さながらの変装メイクをしてきたわけで、若きディーラーは周焔(ジォウ イェン)の連れ合いであるという素性を晒さないことが大前提だったというわけだ。  とにもかくにも一時はどうなることかと危ぶまれた襲名披露イベントが無事に済み、(ヤン)家からは助力を申し出てくれた(ひょう)江南(えなん)博士らを始めとした全員に厚い感謝の言葉が贈られたのだった。 ◆    ◆    ◆  DAの解毒薬で一儲けせんと企んだサクチャイ一味は、迎えにやって来たインターポールに引き渡されることとなった。危険薬物絡みの重大事件だ。加えて再三に渡る江南(えなん)一家を始めとした化学者たちへの拉致や追跡も一から洗い直されるとのことで、テロリスト扱いとしてサクチャイらには重い刑が課されることとなろう。(ヤン)家のディーラーにDAを盛ったサクチャイの仲間とその残党も、これよりはインターポールの手で捜査が引き継がれるそうだ。  偶然にも同じ船に乗り合わせたことで発覚した今回の件だったが、解毒薬が悪党の手に渡る直前で阻止できたことにインターポールからは礼の意が示された。これもひとえに楊礼偉(ヤン リィウェイ)らが豪華客船の旅を贈ってくれた賜物だとして、(ジォウ)ファミリーも鐘崎(かねさき)組も(ヤン)一族に感謝を述べたのだった。 「予期せぬ非常事態ではあったが、皆それぞれに適材適所で存分に力を発揮してくれた。その腕前と活躍ももちろんだが、窮地にある仲間に手を差し伸べてくれようとする皆の心意気に感激と感謝でいっぱいだ。心からの礼を言う」  僚一(りょういち)周隼(ジォウ スェン)らから頭を下げられて、(ヤン)一族はもちろん、マカオの張敏(ジャン ミィン)やメビィらのチーム、それにモデルのレイ・ヒイラギと息子の倫周(りんしゅう)らも互いの絆を喜び、分かち合った。  そしてなんと言っても江南(えなん)博士一家との出会いを忘れてはならない。DAという危険薬物が繋いだ絆は言うまでもないが、とかく鐘崎(かねさき)にとっては生まれてこの方、記憶にすら無かった実の母親と、そして弟という存在と出会えた縁だ。まさに運命が引き合わせたとしか言いようのない邂逅に、言葉では表現し難い感動が沸々と皆の胸を焦がすのだった。

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