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三日後、台湾での観光を楽しんだ一行は、それぞれの本拠地へと向けて帰路に着くこととなった。
江南 博士と夫人の佐知子 は僚一 と隼 の保護下にて無事にドイツのブライトナー博士の元へ旅立つこととなった。本来、息子である暸三 も両親と共にドイツへ渡るはずだった。――はずだったのだが。
なんと暸三 は兄である鐘崎 のいる日本で暮らしてみたいと言い出したのだ。
「日本で……って……。暸三 、お前が兄さんである遼二 君を慕う気持ちは分からないではないが――」
急にそんな突飛なことを言い出されては、鐘崎 組に対しても迷惑が掛かってしまうだろうと言って江南 は渋顔を見せた。
「第一、生活はどうするつもりでいるのだ。まさか兄さんに世話になろうなどと図々しいことを思っているのではあるまいな」
江南 は半ば咎めるようにして顔をしかめている。母の佐知子 も然りだ。
「そうですよ、暸三 。あなたは医師に成り立てで、まだまだ勉強が必要な身なのです。お父様のおっしゃるように生活の面でも一人立ちできていない状況なのです。私たちと一緒にドイツへ渡るべきですよ」
両親に宥められて、暸三 はシュンと肩を落としたものの、確かに言われている通りだと思ったのだろう。素直にドイツへと渡ることを決めたようだ。
「分かりました。父上と母上の言う通りです。ですが兄さん――! 僕は一生懸命勉強を積んで、一人立ちできるようになったら……いつか必ず遼二 兄さんと紫月 兄さんのいる日本に会いに行きたいと思います!」
別れを惜しむように涙を溜めながらも強い意志を見せる。そんな弟に、鐘崎 と紫月 もその日を楽しみにしていると言って微笑んだ。
「暸三 、また会える日を楽しみに待ってるぜ。お前さんも身体を大事にして、ご両親のこともよろしく頼むな」
兄である鐘崎 にポンと頭を撫でられて暸三 はこぼれそうになった涙をグイと拭うと、とびきりの笑顔でうなずいてみせた。
「はい、はい……! 遼二 兄さん、紫月 兄さん、お手紙を書きます! 兄さんたちとお会いできたことを誇りに思って……励みにしてがんばります!」
「うんうん! 暸三 ちゃん、いつでもメッセージくれよな! いつか日本で一緒に暮らせる日を待ってるからさ」
紫月 にもグイと肩を抱かれて、暸三 はコクコクとうなずきながらも再び別れを惜しむ涙を流した。
「では参ろうか。遼二 、紫月 、源 さん、組のことを頼んだぞ」
江南 一家を無事に送り届ける為、一路ドイツへと向かう僚一 に後を託されて、鐘崎 らは一行を見送ったのだった。搭乗機は急遽香港から手配されて来た周 家のプライベートジェットだそうだ。
空港の搭乗口を前に暸三 さながら佐知子 も名残惜しい表情で息子の鐘崎 を見つめていた。
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