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「遼二 さん、本当にありがとう。あなたも身体にはくれぐれも気をつけて、紫月 さんと二人元気でいてちょうだいね」
「ありがとうございます。母さんもどうかお元気で」
「ええ……ええ、ありがとう――遼二 ……!」
佐知子 もまた、こぼれかけた涙をそっとハンカチで拭いながら、
「紫月 さん、遼二 のことよろしく頼みますね」
そう言ってすがるように紫月 の手を取った。
「お袋さん、はい! お任せください。お袋さんもお元気で!」
握り合った佐知子 と紫月 の手に――そっと――鐘崎 の手が重なる。
「俺たちの方は心配要りません。母さんこそ身体に気をつけて――何かあればいつでも連絡ください」
「遼二 さん……ありがとう。ありがとう……本当に……!」
搭乗口に消えていく一家の後ろ姿が見えなくなるまで見送った。二人はそのまま外のデッキへ移動すると、ドイツ行きのプライベートジェットが滑走路を飛び立つまで名残惜しそうにただただ見つめていた。周 と冰 も付き合って、四人で肩を並べ見送る。
「あ……! 動き出した」
「いよいよ離陸だな」
一家と僚一 らを乗せた飛行機がゆっくりとゲートから離れて行く。
春まだ浅い空に離陸の風が舞い、四人の髪を揺らしては頬を撫でる。
なんだか急に寂しくなっちまった気がするな――。
ほんの短い間だったが、皆で過ごしたこの数日の出来事が走馬灯のように脳裏を巡る。とかく、鐘崎 にとっては生まれてこの方、会った記憶はおろか、想像すらしたこともない母親との出会い、弟という存在との出会いがあったのだ。彼らと交わした会話のひとつひとつ、触れ合った感触、そのすべてがまるで郷愁を誘うようだ。
「兄弟――か。いいもんだな」
ポツリと鐘崎 が独りごちる。
「ん、暸三 ちゃんな。いい子だったな」
いつか日本で――共に暮らせる日が来るといいなと、紫月 も瞳を細める。
出会いと別れというのはいつの時代にも胸に詰まる格別の思いを突き付けてくるものだ。
「今の時代だ。いつだって通話もできるし、リモートでツラを拝むこともできるさ」
周 のそんなひと言が切ない思いを吹き飛ばし、明るく前向きな気持ちにさせてくれた。
「氷川 の言う通りだな。会いたきゃいつでも会える」
「だよな!」
もうすっかり空の彼方へと消えた飛行機の方向を今一度目で追うと、鐘崎 と紫月 にもいつもの笑顔が戻ってきた。
「じゃ、俺らも帰るとするか」
「そうだな」
四人、誰からともなく肩を組み合ってデッキを後にする。
「帰ったら久しぶりに紫月 さんの好きなケーキを食べに行きましょうよ」
冰 の明るい声に癒され、
「ンだな! 日常もまた楽し! ってなぁ」
「その通りだな。なんの変哲も無え日常こそが幸せということだ」
紫月 も鐘崎 も楽しみだと言って微笑んだ。
いつの日か、近い未来にまた皆で分かち合えるひと時を夢に見ながら、穏やかな日常へと戻っていったのだった。
邂逅 - FIN -
※この度も完結までお付き合いくださいましてありがとうございました!
次回はその後のオマケ小話2編を更新いたします。帰りのプライベートジェットの中で寛ぐ4人の話です。
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