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48(後日談その2)

「それはそうと、(ひょう)君の例のあれ! 四連チャンのロイヤルストレートフラッシュはめちゃくちゃ凄かったよな!」 「おう、そうだな! 襲名披露に来てたゲストたちはほぼ全員がマジックの一環と思ってたようだが――」  それにしても凄すぎたと言って、鐘崎(かねさき)紫月(しづき)が目を剥いていた。(ジォウ)は当然だといったふうに自慢げで深くソファに身を委ねているが、当の(ひょう)にとっては気恥ずかしい絶賛のようだ。 「実はあれ……マジックといえばそうなんですよ」  え――そうなの? と、鐘崎(かねさき)紫月(しづき)は目を丸くしている。 「ええ……。まあ半分はマジックというか……。(ウォン)のじいちゃんから教わった技で、あのロイヤルストレートフラッシュを出す前にしていたゲームの時から徐々にカードを揃えていってたというか」  ロイヤルストレートフラッシュの四連チャンは一番最後に披露したわけだが、それまでの普通のゲームの中で最後にそれを振る舞う為の準備を行なっていたというのだ。 「最後のゲームで俺が皆さんにカードを配る際に四種類のロイヤルストレートフラッシュになるよう事前に少しずつカードを束ねておいて、シャッフルする時にその束を崩さないようにするだけなんです」 「……そうなのか?」 「――と、種明かしを聞いたところで、俺らにはイマイチそのカラクリが分からん気もするが」 「とはいえ、その束ねたカードを崩さねえようにするっていう自体が神業と思えるぞ」  紫月(しづき)鐘崎(かねさき)も、そして(ジォウ)も身を乗り出しながら目を丸めている。 「え、ええ……まあ、多少練習は必要なんですが。(ウォン)のじいちゃんがそれをいかにも自然に見えるよう、堂々と、それでいて粋で美しい仕草でこなせるように練習しなさいって教えてくれたんです」  実際、(ウォン)老人からお墨付きが出るまではかなりの訓練と時間を要したそうだが、それも(ひょう)の努力の賜物だろう。また、それを鼻にかけずに常に謙虚な姿勢にも感服させられるところだ。まあそれだからこそ神業ともいえる腕前なのだろう。 「でも(ヤン)さんのところのディーラーさんも本当に凄かったですよね! あのルーレットの勝負はたいへん勉強になりました」  (ヤン)家のディーラーのことも素直に褒め称える。そんなところが(ジォウ)が溺愛する要因のひとつなのだろうが、この(ひょう)というのは本当に素直で謙虚であたたかい心根の持ち主だ。 「な、氷川(ひかわ)――」 「可愛くて仕方ねえべ?」  鐘崎(かねさき)紫月(しづき)が瞳を細めながら耳打ちする。 「そりゃ、まあ……」  当然だ――と鼻高々ながらも頬を染めた(ジォウ)の表情はなかなかに珍しい見ものである。(ひょう)もまた、そんな亭主につられて一気に頬を染め、茹蛸と化していくのが実に可愛らしい。 「イヒヒ、んじゃ帰ったら四人で泡風呂大会でもするべか!」  行きの豪華客船でやり損ねた例のお楽しみだ。 「そいつぁ名案だ。それじゃ次の休みはどこか近場の温泉にでも行くか」 「いいな。個室付きの露天風呂があるところでも当たってみるとするか」  と、そこへ機内食が出来たと真田(さなだ)が伝えにやって来た。 「よっしゃ! それじゃメシを食いながら行き先を決めるとしよう」 「マジ? やったな、(ひょう)君!」 「はい! 楽しみです」  とはいえ、こんなに楽しみばかりで罰が当たりそうと、これまた謙虚なことを口にする。そんな可愛らしい(ひょう)に笑みを誘われながら、和気藹々、次なる旅先に思いを馳せる男三人だった。 後日談その2 冰の四連チャンマジック!? - FIN -

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