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第2話
そしてそれから俺は、ケンの誘いをなるべく断らない様にしたももの。
やることは変わらず。
「よし!今日はマリ〇カートやるぞぉ!今日こそはお前に勝つ!」
「え……いや、今日は」
「負けた方はアイスおごりな」
「あぁ!?なら負けるわけにいかねぇつうの!!オラクソがァア!!」
家で一日中ゲームしたり。
「なぁケン。あのな、良かったらその……」
「オ!健介じゃん!なにしてんの~?」
「なんだお前ら?就職組は学校じゃねぇの?」
「今日は休みなんだよ!なぁなぁ暇ならそのまま一緒に遊んでいこうぜ?」
「いいぞ?コウも一緒に……ってアレ?コウ?」
ケンの友人に邪魔されたり。
「ありゃりゃ。これじゃ今日は海は無理だな」
「……チッ。なんでこんな時に限って」
海に行く約束をした日に限って、雨が降ったりと。
とにかく。好きだと言うタイミングがなかなか作れない。
それどころか、一日二人で過ごすと言ったらゲームしてる時だけ。しかも熱くなりすぎて、恋人らしい雰囲気なんて全くない。皆無だ。
それによくよく考えたら、遊ぶ約束だって全部ケンからだ。俺から誘った事なんてまだ一度もない。
男のくせに恋人にデートの誘いすらしないとか。もしこれで相手が女だったら、今頃俺は平手打ちくらいはされている頃だろう。
こんなんじゃ、好きなんて到底言えない。
「はぁ……クソッ。どうしたらいいんだ」
七月のカレンダーを破り捨て。俺は、後一か月もない休みをどう有効に使うか考える。
この夏休みで目標を達成出来なければ、きっと俺はケンに好きだと一生言えない気がする。
もしくは、ケンの方が俺に飽きてしまうかだ。
「冬が近づけば、受験だしな……」
ケンと俺が受験する大学は違う。
そんなに離れてるわけじゃないが、きっとアイツはまた大学でも別の友人が出来て、もしかすると心を入れ替えてしまうかもしれない。
俺みたいな顔も口も悪い男より、美人で優しい女に惚れこんでしまうかもしれない。
そうなったら俺は、耐えられるのか?
ケンが離れていくことに。俺じゃない誰かを好きになることに。
「って、なに泣きそうになってんだ俺は……クソキモイ。クソッ……」
怖くて誰も近づかなかった俺を、唯一見てくれたケン。
口下手な俺でも、ちゃんと話を聞いてくれたケン。
こんな俺を、好きだと言ってくれたケン。
「ダメだ。ぜってぇ離れたくねぇ……」
ケンの顔を思い浮かべる度、溢れてしまいそうになる涙を堪えながら俺はカレンダーの前で小さくしゃがみ込んだ。
ジリジリと煩かったセミの音は、俺の心臓の音で聞こえない。
あぁこの音がーーケンにも聞こえたらいいのに。
「ちょっと晃一!」
「おうわっ!ちょっ、急に入ってくんなクソババア!!」
「誰がクソババアよ!あんたそろそろ高校卒業するんだから、いい加減反抗期やめなさいよねぇ」
「うっ」
俺も内心そうは思っているのだが。いざ普通にしようとすると恥ずかしくて、未だ反抗期の子供みたいにババアなんて呼んでしまう。
マジすまん。目標達成できればきっとこれも治るから、我慢してくれ母さん。
「それで、あんた八月の夏祭りは行くの?行かないの?」
「……祭り?」
「どうせ行ってくるでしょ?お母さんもその日、お友達と一緒にカラオケオールだから、家だれもいないからね?お父さんも仕事だし」
そうだ。
恋人の夏といえばお祭りだ。それに花火だってあるし、好きと言う雰囲気もばっちりだ。
頭の中で浮かぶ完璧なシチュエーションに少し恥ずかしくなりながら、俺はスマホをポケットから取り出し。ケンにこう送った。
「[明後日、夏祭り、行きたいか?]」
いや何様のつもりだよ!?俺は馬鹿か!!
普通に『行こうぜ』で、いいじゃねぇか!あぁクソッ。メールで恥ずかしがってどうする。
ピロン♬
「[いいじゃん!行こう!]」
メール文から伝わってくる、ケンの嬉しそうな感情。
「っ……///ホントコイツは、優しすぎるだろアホ///」
一分も経たずに帰ってきたメール文をずっと見つめながら、思わずにやけそうになる口を手で隠して、俺は安心と幸福感に満たされていた。
きっとうまくいく。
そんな気さえしていた、
「明日、髭剃らないとな……」
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