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第2話
入学当日
春の温かい日が登る中、朝早くからメイドたちがバタバタと荷物をまとめている
その間僕はゆっくりと伸びをして父が迎えに来るのを待っていた
ここからリエルエス学園は少々遠い場所に立っているため馬車で移動する必要があるらしい
現にノアの寝室の窓から外を覗けば、門の前に3台馬車が止まっていた
一つは僕の、もう一つは荷物を載せる用
そしてもう一つは、今日初めて会うことになるアラン兄様の馬車だ
僕には兄がいる
長男のアラン兄様
僕とは違い、当たり前のようにアルファに生まれ、頭脳明晰、とくに魔法学を得意としており、もちろん魔術の扱いも学園でもトップレベルに腕がいい
そして、この離れに幽閉されていた僕は、アラン兄様と同じ学園に通うことになるわけだが、なんせお兄様とは初対面だ
楽しみというか、不安というか
「ノア様、お迎えに上がりました」
と、考えているうちに父の侍従が僕の部屋にやってくる
僕は窓辺からぴょんと飛び降りるとメイドが残した少量の荷物を侍従に持たせると、父の元まで歩き始めた
「なんと、大きくなられて…」
後ろで侍従が僕の荷物を持ったまま立ち止まり感極まっているので、早く、と声をかければハッとしたように後を追ってきた
彼はグレン、ベータの男だ
僕が3歳くらいまで面倒を見ていてくれていたらしいが、この離れに幽閉されてから男との接触を断たれたため、当然彼も僕の世話をする機会はなくなってしまった
それでも僕のことが気になるグレンは、どうしても僕の様子を伺いたくて、メイドにいろいろ聞き回っていた。
というのを、メイドが教えてくれた
年数でいうと10年ぶりとなる
たしかに久しぶりだなぁと僕は思った
そうこうしているうちに父の元へ辿り着く
その後ろにはおそらく僕の兄であろう人影が馬車から降りてくるところだった
本当は後ろのお兄様が気になるが、まずは父に挨拶する
「おはようございます」
「ああ」
父はぼうっとノアの制服姿をまじまじ見つめて立ち尽くしている
普段は見ないノアの礼服姿はあまりに新鮮で、あまりに美しかったのだろう
ジロジロ見ないでよ気持ち悪い
僕は内心ひっそりと悪態をつくが、それを口にも顔にも出すことは一切しない
ここに至るまでどれほど苦労したことだろうか
今父の機嫌を損ねてしまったら、それこそ水の泡だった
ニコニコと微笑む僕をじっと見つめる父にいい加減痺れを切らしてしまったが、後ろの馬車から物陰が近づいてくるのが見えたので、僕は話題をそっちにずらすことにした
「えっと、お父様、お兄様にも、挨拶してよろしいですか?」
「あ、ああ、紹介しよう。お前の兄、」
「アランです。君より3つ年上になる」
父の話を遮って後ろから顔を覗かせてお兄様が挨拶してくれた
3つ年上となると今は16歳
艶めく薄い色素の金髪から覗くのは、知的な雰囲気を持った顔で、すごくイケメン
雰囲気は父とよく似ているけど、微笑んでいるせいかアラン兄様からはさほどアルファの威圧感は感じなかった
「お初にお目にかかります。アラン兄様」
ぺこりとお辞儀をして挨拶する
反応はというと、長い間離れ離れだった弟との感動の対面…
というわけではなく
アラン兄様は顔は笑っているものの、僕に向けられる目は冷ややかで、まるで汚いものを見ているかのような視線だ
それはノアがオメガであり、婚外子である事実が彼をそうさせているのだろう
傷つきはしないが、たった1人の兄弟にさえこんな反応されるとは、オメガとはいったいどこまで哀れな存在なのだ
「では、挨拶も済んだことですし、行きましょうか」
アラン兄様がさっさとこの場を締めるように言って再び馬車に向かう
続いて僕も馬車に向かう
すでに馬車にはグランが待機しており、僕のためにドアを開けてくれていた
「ではお父様、行ってまいります」
「気をつけなさい。オメガである自覚を忘れるな」
まるで余計なことはするなと命令するように言うと、父は僕を馬車へエスコートする
僕は素直に父の手を取るが、軽くその手をさすられて全身に鳥肌が立った
僕が乗り込んだ後にグレンが馬車に乗り込む
どうやらグレンは今回、入学デビューする僕の世話係兼、監視役となったみたいだ
「これからは私がノア様とご一緒させて頂きます」
「うん、よろしくねグレン」
父が見ている中、当たりざわりのない笑みをグレンに見せると、グレンもニコリと微笑み返してくれた
ほどなくして馬車が動き初めた
窓の外では馬車を見ながら立ち尽くす父が見えたので、僕は控えめに手を振って、最後の愛想を振りまいた
しばらく窓に向かって手を降っていたノアだったが、父親が見えなくなった途端にシャッと勢いよくカーテンをしめた
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