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第9話

…憂鬱だ… 昨日、あんなことをしでかしたのだから、きっとすぐに父の元に話は行っただろう そしてそれを聞いた父は、 やはり学校に行かせるべきじゃなかった、我が家系に泥を塗りおって!今すぐ退学だ!! などと怒っているのだろうな、とノアはぼーっと天井を見ながら考えていた 退学届は明日か明後日か、もしくは早くて今日か… せっかくあの牢獄から出られたと言うのに、また逆戻りして計画が台無しになるのは流石のノアでも凹む気がする。嫌だな。帰りたくない。 しかしこのまま悶々と考えていても仕方ない 今の時点では退学の通知は来てないんだから諦めるのはまだ早いのだ せめて残った時間だけでも、今のうちにに学生生活を満喫しよう 「おはようございますノア様。ミルクティーをお淹れいたしました」 「ありがと」 グレンからカップを受け取るとノアはそれを一口飲んだ 深い紅茶の旨みと甘さ控えめだがミルクの自然な味が合わさり、サッパリとした朝にうってつけの飲み物だ グレンはノアがミルクティーを飲んでいる間、ノアの髪型をセットする 肩まで伸びた髪は、ノアにとって少々鬱陶しいが、庭園にいた時はメイド達が、今はグレンが、楽しそうにヘアアレンジをするので伸ばしっぱなしにしている そんなノアのサラサラの髪を解いているグレンに朝から気になっていたことを聞いてみた 「お父様から何か言われてない?」 「そうですね、特には」 「本当に?た、退学の話とか…」 「いえ、そのようなことは聞いておりません」 「…そう」 まだ上手く伝達が言っていないのだろうか こんな話、父が聞けば何かといちゃもんをつけて僕を学園から引っ張り出そうとするはずだろうから、父の耳に入れば何かしらあるのは確定だ まあ、時間があるならばそれでいい 退学通知がきたらその時はその時だ 気分を入れ替え、今日も授業に行く準備をする もう入学から4日目なので、僕の案内役のルイスはもう迎えに来ない 今日から1人、いやグレンがいるので2人の登校だ 支度が終わり、扉を開けると、そこにはいないはずの人物が壁に寄りかかりノアを待っていた 「ルイス先輩?」 「あ、ノア君。もう支度は終わった?」 「え、ああはい。それよりルイス先輩はどうしてここに?もう案内期間は終わってるので、迎えに来なくていいですよ」 「うん、そうなんだけど、この数日君を見てて興味が沸いちゃって」 そう言ってルイスはノアに近づくと、曲がったリボンタイを手直ししながら行った 「よかったら、俺と友達になってくれないかな?」 「えぇ…」 「あれ、嫌かな」 嫌なわけではない。ただ、アルファと言うだけで、オメガのノアにとってはあまり信頼におけるものではない 何か企んでるとか、裏があるとか、そう言うことばかり思い浮かんで疑ってしまうのだ もちろんこの数日間でルイスはそんな人じゃないのは理解しているが、それ以外にも、ノアと関わることはあまりよくない うーん、と唸りながらも、やはり友達というのは、あまり人と関わってこなかったノアにとってはとても魅力的なお誘いだった 「嫌じゃないんですけど、僕といると先輩も変な目で見られちゃいますよ」 「構わないよ。君といる方が面白そうだから」 「それなら…わかりました。友達になりましょう」 「ありがとう。今日から先輩じゃなくてルイスでいいよ、ノア」 急な距離の詰め方にいささか疑問を抱いたが、今はそれより、友達が出来たことの嬉しさの方が強かった 友達。この人生で初めての友達だ 前世ではまあまあ友達がいたせいか、その反動で今はかなり寂しい思いをしていたんだと思う 周りの奴らもオメガをよく思わない嫌な奴らばかりで孤独を感じていたが、同性の、しかも年上の友達ができたのは大いに喜ばしい ノアの足取りは軽く、ルイスと歩く校内はいつもと違った景色に見えた さて、話は変わるが選択授業を早めに決めなければならない 昨日剣術の授業でいろいろやらかしたので、剣術はなし 残るは魔術か芸術だが、魔術にはノアの兄、アラン兄様がいるので論外だ 今の所アラン兄様とはあまり関わりたくない 向こうもノアを嫌っているみたいだし、ノアもあいつが嫌いだった さらにノアには魔力が微塵もない ので魔術はパスだ そうなると消去法で芸術となるのだが、芸術にも種類があり、画工や音楽、手芸やダンスなどもあるらしいが、どれも面白そうだ 「じゃあノアは芸術にするんだね」 「うん、今日見学に行って、なんの分野にしようか選ぶことにする」 「そっか、一緒にできないのは残念だけど、頑張ってね」 そう言ってノアとルイスは教室の前で別れた その日も何事もなく授業が進み、昼食はルイスと共にして、選択授業の時間はすぐにやってきた 「ではノア君、今日はいろんな分野に触れて見ましょうか」 「はい、先生」 芸術科の教師は剣術の奴らと違って暑苦しくなく、お淑やかな女性でよかった ただ、逆に生徒陣の方は曲者が多いようで、ノアの様子をじっと睨みつけられた これはまた面倒な事になりそうだが、もうノアには選択肢がここしかないのだ 今度は慎重に、問題を起こさないように大人しくしていよう そのためにはまず、どの分野にするのか決めなければ まず最初に手を出したのは画工だ キャンバスに油絵の具を載せていくが、これまた難しく、描いていたのは林檎のはずだったが、最終的には何が描いてあるのかわからなくなるくらい原型を留めていなかった 画工は向いていないと、そうそうに辞退した 次に手芸だ ここでは簡単な刺繍から始めたが、なんせ針を扱うのは初めてで何度も指に突き刺した 血が出る箇所を増やしながらも何とか終わらせたが、周りの生徒達はドレスなどを作っていて、あまりのレベルの違いに気圧され辞退した ダンスは無理だ。できない。 あれよこれよと試すうちに、最後は音楽を試すことになった 実はこの中では音楽が1番自信があった というのも、前世でピアノを習っていただけなので、今世もその感覚が残っていればの話だが 「ここではヴァイオリンやピアノ、フルートなどの様々な楽器を扱っています。何か気になる楽器はありますか?」 「そしたら、ピアノを」 ヴァイオリンやフルートも面白そうだが、そこらの派閥はザ・貴族令嬢な女子が多くて、その中に1人男が入るのは気が引けた 向こうも歓迎してなさそうだし、何よりピアノはあまり人気がないようで、人数関係で争いもなく、尚且つノアにも親しみのあるピアノを選ぶのが無難だろう

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