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第11話

「模擬試験?」 ノアはいつものようにルイスと食堂に来ており、食事を食べているとルイスからそんな話を聞いた 「ごめん、言ってなかったよね。入学式からしばらくしてから、簡単なテストがあるんだ。学年の偏差値を確かめるためにね」 「それが明日からあると…僕、勉強してない」 「ああ大丈夫だよ。模擬だから簡単な問題しか出ないし、きっと君でも簡単だよ」 「そうなんだ、じゃあ、大丈夫かな」 ノアはそっと胸を撫で下ろす この学園に来てはや1週間が過ぎたが、授業の内容も問題なく理解できるし、簡単と言うのなら何も身構えなくて大丈夫そうだ 「そういえば、この前ノアを侮辱した教師、クビになったらしいよ」 「へー、そうなんですか」 「興味なさそうだね」 ルイスに言われるが、ノアは目の前のスイーツに目が眩んでいた このスイーツは、いつも学食に来てサラダしか食べないノアを不憫に思った食堂のおばちゃんが、ノアにだけ特別にデザートを作ってくれたのだ それはひんやり美味しい、みかん味のゼリーだ 半液体のゼリーは非常に食べやすく、さっぱりしていてノアのお気に入りだ 前世でもお菓子や甘いものは好きだったが、どうやらノアの子供舌は今も継続しているらしい サラダとスープ、そしてゼリーだけが置かれたノアの食事を見て、だんだん食べれるようになってきたかも、と自分でも思う 「この後授業入ってる?」 「いえ、今日はないです。このまま帰ろうかと」 「それなら学園の外に遊びに行かないかい?おすすめのカフェに2人で行きたいな」 「外…ですか……」 ここに至って父の言葉を思い出す 学園の外に出たら、即退学だと ノアはここに来て1週間。戻るには早すぎる期間で、まだ退学にはなりたくない 歯切れの悪い返事のノアを見て、何かを気遣ったのか、ルイスは慌てたように言った 「いや、無理しなくていいよ。ノアはいろいろ気にすることあるだろうし、俺の考えが至らなかったよ」 「ああ、いえ…はい…」 おそらくルイスは、ノアがオメガだからこんな反応をしたと思っているのだろうが、理由は違えど、結局外には出られないので、そういうことにしておこう ノアのゼリーを掬うスプーンが止まっているのに気づいて慌てたルイスは、気まずそうにしながらも、ノアの意識を再び食事に向けようとしていた 「それ、美味しい?」 「え、あはい、美味しいですよ。食べますか?」 「そんな、これ以上君の食べるものがなくなったら申し訳ない」 「いいですよ一口くらい、ほら」 ノアを気遣って言ったのだが、当のノアはルイスが食べたいのかと勘違いし、ノアはゼリーの一掬いをルイスの前に突き出した 俗に言う、あーんの形でだ 「特別ですよ」 ノアは意地悪く笑って見せた これはノアのためだけに作られたおばちゃんのゼリーであり、他の生徒には配られてない、特別なスイーツだ 前世でも生徒同士で、学食の人気メニューを競い合って、勝ち取った者は、買えなかった生徒に見せつけるように食べていた 幼い年齢というのも相まって、当時のノアは相当ムカついたものだ だから自慢気ながらも、優しさのつもりで一口でもルイスに分けてやろうと思ったが、ルイスは固まり目を泳がせ、こちらの気を伺うように見てきた 「食べないんですか?じゃあ僕が…」 「あ、たべ、食べるよ、ありがとう」 「うわっ、あっ!」 腕が疲れそうなので、食べないならと、ゼリーを引き戻そうとしたら、慌てた様子のルイスはノアの腕を引き、パクリとスプーンを咥えた ノアは驚き声をあげ腕を引っ込めた カランと音を出してスプーンが机の上に落ちる 「あっ!ごめん、ごめんびっくりしたよね」 「あ、い、いえ大丈夫です」 ノアが驚いた理由は、いきなりルイスに触れられたからだ ノアにとってこれが初めて、父親以外のアルファに接触した瞬間だった あまりの急さに驚きルイスから距離をとってしまったが、何を驚くことがあるのだろうと、ノアは思い返しす 触れられた箇所を触ってもなんともないし、怪我をしたわけでもないのに大袈裟な反応を示してしまった その様子を見てルイスも慌てている 驚かせてしまい申し訳ないという気持ちが出た 「ごめんね、ほんとうに」 「どうでしたか?」 「え?」 「ゼリー」 ノアに聞かれポカンと呆けたルイスは、美風の言葉を理解したのか慌てたように言った 「美味しかったよ、ありがとう」 「そうですか。よかったです」 「それより、いきなり触ってごめんね。つい手が出ちゃって」 ルイスは申し訳なさそうに言った 確かに少し驚いたが、こちらも過剰に反応してしまったことは事実だ 謝る必要はない だが気恥ずかしいノアは素直に言えるはずもなく、話を逸らすように言う 「そんなに欲しかったんですね。ゼリー」 「ゼリー…って言うよりはノアの…」 「なんですか?」 「…なんでもない」 少し聞こえにくい部分があり、ルイスに聞き返すが、そっぽを向かれてしまった なんだかお互い気まずい せっかく仲良くなれたと言うのに、こうもギクシャクしていいのだろうか 何か無礼をしたのか、何が悪かったのか、ノアはわからず首を傾げた 「僕、何かしました?気に触るようなことあったなら謝ります」 「いや、ノアは悪くないんだ。どちらかと言うと俺が謝るべきだよ」 そう言われてノアはまたも首を傾げる さっきの腕に触れたことだろうか そんなことで怒るはずのないのに、とノアは思いながら言った 「怒ってないですよ」 「うん、ありがとう」 それ以降は会話が続かず食事を食べ終わったところで、その日は早々に解散した やはり気まずくて嫌われてしまったのではと思ったノアだったが、帰り際に、気にしなくていいから、と言われて、もうそのことは考えないようにした 模擬試験当日 ルイス曰く簡単な問題しか出ないそうなので、授業のおさらいくらいしかしていなかったが、ルイスの言っていたことは本当だった (これは術式の読解か…古代文字は苦手だけど、簡単な文字の羅列しかないから僕でもわかる) ノアは配られた答案用紙に書かれた問題を解いていく 授業で習った覚えはないが、学園に通ったことのないノアにもわかるものばかりなので、きっと基礎問題か何かだろう スラスラと書いていき、誰よりも早く終わったノアは早々に机に突っ伏した 「止め、回収」 教師の呼びかけで一斉に問題用紙を集める ノアも最後に名前の書き忘れだけチェックして前に回した ルイス情報では、授業さえ聞いていれば平均点は簡単に狙えるだろうと言っていた でもノア的には手慣らしに少し本気で書いてみたが、なかなか手応えがあったので、結果には自信がある 俯く者、ヒソヒソ話す者と様々だが、その中でもノアは1番早くに立ち上がり、教室を出た そのためその後、教室で明かされた事実を、ノアは知る由もない

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