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第2話:最初のレッスン
俺は、藤倉……いや冬真と、付き合うことになってしまった。
ちなみにあの後カフェで、今後は下の名前で呼ぶよう練習させられた。
「ふ……と、とぅ……ま……」
名前で呼んでいる友達はたくさんいるのに、「つきあうんだから下の名前で呼べ」と言われると、恐ろしく恥ずかしい。
顔が赤くなって、言葉が出てこなくなってしまう。
「ダメだ、今『ふ』って言いかけたぞ、朔太」
こいつ、ほとんど話したことないのに、よく俺の名前がスルッと出てくるな。
俺と「つきあいたい」んだから当たり前なのかもしれないけど……。
「とっ、とう……ま……」
「違う、『と』は二回言わなくていい。もう一回」
「……」
「言えよ、ほら」
向かいの席から隣の席に移動し、顔を寄せてくる。よけい恥ずかしくなるからやめろ。
「と、と……うま」
「もう一度」
──ううううう……
恥ずかしさのあまり涙が出そうになってきた。
「今度、今度までに練習しておくから!」
俺はどうにかその場を逃れようとした。
「そうか」
──よし、納得してくれたぞ!
「じゃあ、初デートの時までに練習しておけよ、朔太」
──は、初、デート……?
「い、いきなり初……デート?」
藤……いや冬真は不思議そうな顔をした。
「いきなりって、つきあうのに他に何をするんだ?」
──そりゃそうか……。
俺の人生で一回こっきりの人生初デートは、こいつとなのか……。
「どこかデートで行きたいところあるか?」
デートで行きたいところと言われても、ついさっきつきあうことになったのに、何も考えつくわけがない。
「特に何も……」
「そうか、じゃあ考えて後でLINEする」
LINEを交換してようやく解放してもらえた。
* * *
家に帰ってきても、さっきのことが頭から離れず、風呂に入った後もベッドでなんとなくゴロンゴロンしていると、LINEが鳴った。
起き上がってスマホを見ると、"どっちがいい?"というメッセージとともに、URLがいくつか送られてきた。
動物園と水族館のようだ。
──よかった。
恋愛映画とかムーディなデートスポット(どんなのがあるのか知らないけど)とかだったらどうしようと思っていたので、普通のところだったので、俺はなんとなくホッとした。
──水族館と動物園だったら、動物園のほうが、デートっぽくなくていいよな。
俺が、"動物園のほうがいいかな"と返信すると、さっそく返信が帰ってきて今週末に行くことが決定した。
「はあああああ~っ」
俺は深~~いため息をついて、ベッドに横たわった。
とりあえず「命拾い」したような謎の感覚がある。
これで週末までは「冬真とつきあう」件について考えなくて済む。
気を取り直して明日の支度をしようと起き上がった俺は、思い違いに気づいた。
──明日学校で会ったらどうすればいいんだ?
”つきあうことになった件は、とりあえず学校のみんなには、言わないようにしてくれ"
慌てて冬真にLINEすると、少したって返信が来た。
"なんで?"
なんでって、そりゃ……当たり前だろ……と思ったが、うまく言えない。
"なんででも!"
あれこれ考えたが言葉が浮かばないので、思考停止した返事を送ったところ、
"まあ、じゃあさしあたりはそれでいいよ"
という返事とともに、"OK"のスタンプが送られてきた。
翌朝、学校へ向かう並木道を歩いていると、冬真の背中が見えた。
学校では秘密にするとは言ったが、無視するのもなんだか不自然な気がして、
「おはよう、……冬真」
とあいさつしてみた。
「ああ、おはよう朔太」
もしゃもしゃ頭にメガネをかけていた冬真は、ちょっと嬉しそうに笑った。
メガネのもしゃもしゃ頭だと、「いつものクラスメイト」という感じがして、思いのほか普通にあいさつができた。
よし、この調子でデートも乗り切れば大丈夫だぞ。「クラスメイトと一緒に遊びに行く」だけだ。どうっていうことはない。
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