2 / 23

第2話:最初のレッスン

 俺は、藤倉……いや冬真と、付き合うことになってしまった。  ちなみにあの後カフェで、今後は下の名前で呼ぶよう練習させられた。 「ふ……と、とぅ……ま……」  名前で呼んでいる友達はたくさんいるのに、「つきあうんだから下の名前で呼べ」と言われると、恐ろしく恥ずかしい。  顔が赤くなって、言葉が出てこなくなってしまう。 「ダメだ、今『ふ』って言いかけたぞ、朔太」  こいつ、ほとんど話したことないのに、よく俺の名前がスルッと出てくるな。  俺と「つきあいたい」んだから当たり前なのかもしれないけど……。 「とっ、とう……ま……」 「違う、『と』は二回言わなくていい。もう一回」 「……」 「言えよ、ほら」  向かいの席から隣の席に移動し、顔を寄せてくる。よけい恥ずかしくなるからやめろ。 「と、と……うま」 「もう一度」  ──ううううう……  恥ずかしさのあまり涙が出そうになってきた。 「今度、今度までに練習しておくから!」  俺はどうにかその場を逃れようとした。 「そうか」  ──よし、納得してくれたぞ! 「じゃあ、初デートの時までに練習しておけよ、朔太」  ──は、初、デート……? 「い、いきなり初……デート?」  藤……いや冬真は不思議そうな顔をした。 「いきなりって、つきあうのに他に何をするんだ?」  ──そりゃそうか……。  俺の人生で一回こっきりの人生初デートは、こいつとなのか……。 「どこかデートで行きたいところあるか?」  デートで行きたいところと言われても、ついさっきつきあうことになったのに、何も考えつくわけがない。 「特に何も……」 「そうか、じゃあ考えて後でLINEする」  LINEを交換してようやく解放してもらえた。  * * *  家に帰ってきても、さっきのことが頭から離れず、風呂に入った後もベッドでなんとなくゴロンゴロンしていると、LINEが鳴った。  起き上がってスマホを見ると、"どっちがいい?"というメッセージとともに、URLがいくつか送られてきた。  動物園と水族館のようだ。  ──よかった。  恋愛映画とかムーディなデートスポット(どんなのがあるのか知らないけど)とかだったらどうしようと思っていたので、普通のところだったので、俺はなんとなくホッとした。  ──水族館と動物園だったら、動物園のほうが、デートっぽくなくていいよな。  俺が、"動物園のほうがいいかな"と返信すると、さっそく返信が帰ってきて今週末に行くことが決定した。 「はあああああ~っ」  俺は深~~いため息をついて、ベッドに横たわった。  とりあえず「命拾い」したような謎の感覚がある。  これで週末までは「冬真とつきあう」件について考えなくて済む。  気を取り直して明日の支度をしようと起き上がった俺は、思い違いに気づいた。  ──明日学校で会ったらどうすればいいんだ?    ”つきあうことになった件は、とりあえず学校のみんなには、言わないようにしてくれ"  慌てて冬真にLINEすると、少したって返信が来た。  "なんで?"    なんでって、そりゃ……当たり前だろ……と思ったが、うまく言えない。    "なんででも!"  あれこれ考えたが言葉が浮かばないので、思考停止した返事を送ったところ、  "まあ、じゃあさしあたりはそれでいいよ"  という返事とともに、"OK"のスタンプが送られてきた。  翌朝、学校へ向かう並木道を歩いていると、冬真の背中が見えた。  学校では秘密にするとは言ったが、無視するのもなんだか不自然な気がして、 「おはよう、……冬真」  とあいさつしてみた。 「ああ、おはよう朔太」  もしゃもしゃ頭にメガネをかけていた冬真は、ちょっと嬉しそうに笑った。  メガネのもしゃもしゃ頭だと、「いつものクラスメイト」という感じがして、思いのほか普通にあいさつができた。  よし、この調子でデートも乗り切れば大丈夫だぞ。「クラスメイトと一緒に遊びに行く」だけだ。どうっていうことはない。

ともだちにシェアしよう!