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第3話:初めては動物園デート

 週末、デートの日が来た。 「クラスメイトと一緒に遊びに行く」だけだと自分に言い聞かせたものの、何を着ていくか深夜まで迷ってしまった俺は、少し寝過ごしてしまい、結局そのへんのユニクロを着て、起きたままの頭で慌てて待ち合わせ場所に向かった。  幸い遅刻はせずに済んだが、冬真は先に来ていた。 「悪い、遅くなった」  と言うと、冬真がニヤッとして言った。 「いや、俺もついさっき来たところ」  ──俺のバカー! 何「デートの定番」みたいな会話しちゃってんだよー!  冬真を見ると、もしゃもしゃ頭にメガネの通学スタイルでも、髪を後ろになでつけたウェイタースタイルでもなく、きちんと前髪をいいカンジに流してメガネをはずしたスタイルで来ていた。  服も、シンプルで飾り気がないのに、形がおしゃれなものを着ていて、冬真のすらっとしたスタイルが引き立っていた。  ──こうして見ると、イケメンだな……。  塁さんとは少し違う方向性のイケメンだ。欧米人風の彫りが深くて顎が張っている輪郭に、バサバサ金髪まつげで垂れ目気味の塁さんに対して、冬真は、すっきりとした輪郭が、並行二重なのに少し吊り上がって横長の悩ましげな目によく合っている。  脚もスラっと長い。フランス人ハーフだという、塁さんの血を引いているからだろう。  ちんちくりんで全身ユニクロの自分が、ちょっと恥ずかしくなった。  冬真は、ちょっとおしゃれな帆布の大きめのエコバッグを持っている。 「あ、ホントにお弁当作ってきてくれたんだ」 「うん。後で食べような」  お昼ごはんをどうするか事前に聞いたところ、園内のレストランは混んでいるかもしれないので、弁当を作って持っていく、と冬真が言ったのだ。  にっこり微笑んだ冬真は、ウェイターさんとしての営業スマイルとも、「俺とつきあえ」と言った時の不敵な笑みとも違う、自然で優しい笑顔だった。  ──こいつもしかして、本当に俺のこと好きなのかな……。  あんな無茶ぶりを突然してくるくらいだから、俺は冬真が、頭のおかしい奴なのか、俺に何かドッキリでも仕掛けているのかと思っていたのだ。  いや、騙されてはいけない。手の込んだドッキリかもしれない。一瞬ほだされそうになった自分に心の中で喝を入れて一緒に歩き始めた。  周りは家族連れやカップルばかりで、男二人だと目立つんじゃないかと心配していたが、実際に中に入ってみると、確かに家族連れが一番多いものの、一人で来ている人や、女性同士や男性同士など色々といて、俺たちが男同士で来ていても、誰も気にしていないようなので安心した。  動物園は、小学校低学年以来だったが、意外と楽しいことに気が付いた。  展示の仕方も昔に比べて工夫されていて、見ていて飽きない。  プレーリードッグが地面にトンネルを掘っている様子が見られるようになっていたり、ゴリラのエリアが本当に森の中のようになっていて、木陰に座っている姿が見られたりと、結構楽しかった。 「あのゴリラ、一所懸命ワラをより分けてるな」 「こういう農家のおばあちゃんいそう」 「わかるわかるわかる」  冬真は、学校ではあまり話したことがなかったが、意外と普通に話しやすい奴だということがわかった。  二人で笑いながら園内を回るのは、けっこう楽しくて、あっという間に時間が過ぎた。 「腹減った~」  大きな池のほとりに、木のテーブルとベンチが並ぶ休憩スペースがあったので、そこでお昼を食べることにした。  園内のレストランはどこも混み合っていて、冬真が弁当を持ってきたのは大正解だった。  冬真がエコバッグから弁当を出してテーブルに広げた。 「おおっ! すげ~!」  おにぎり、から揚げ、だし巻き卵、かぼちゃの煮物、ブロッコリー、ミニトマト、レタス、にんじんの千切りサラダ……。定番だがどれも外さないラインナップがぎっしりと詰められている。 「いっただきま~す」  さっそくおにぎりを口にほおばる。 「うま~~い!」  おにぎりなんて、ご飯をラップに包んでギュッギュとやるだけのはずなのに、なぜかすごく美味い。お母さんのおにぎりよりうまい。  から揚げも、弁当屋のから揚げのようにガチガチじゃなくて、カリっとしているのに中はふんわりしている。 「カフェやってるからか? 塁さんに教わったの?」 「親父に料理を教わったことはないよ。むしろ父子家庭だからかな。親父は基本的に店のほうで忙しいから、食事を作るのはたいてい俺だな」   箸と皿を冬真から受け取り、さっそくおにぎりとから揚げを確保しながら聞いてみると、淡々とした返事が返ってきた。  そうなのか。複雑な家庭環境なんだな……。お母さんはどうしているんだろうか。 「あの、冬真のお母さんって……」  お亡くなりになったんだろうか。 「ああ、俺が小さい時に離婚したよ。養育費はきちんと振り込まれているが、ほとんど会ったことはない」  へぇ~。どんな人なんだろうか。 「……笑わない?」  デリカシーのない質問かもしれないが、「もしかまわなければ」と前置きして聞いてみると、冬真が謎の質問をした。 「へ? 何? よくわからんけど笑わないぞ」  冬真はスマホを操作して、何やら検索しているようだ。 「これが俺の母親。藤姫桃香っていう……AV女優」

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