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第6話:2回目のデートは遊園地で
"次のデート、どこか行きたい場所ある? 特になければ、いくつか考えたので送る"
というLINEとともに、冬真から水族館と遊園地のURLが送られてきた。
俺は、水族館と遊園地のどちらが、「おかしな雰囲気になってしまわないか」必死で考え、その結果、遊園地を選んだ。
絶叫マシンとかだったら、手を握ったりキスしたりする雰囲気にはならないだろう。うん、よし。
冬真は、またお弁当を作ってきてくれたようで、前回と同じ大きな帆布のエコバッグを持っていた。
「なんかありがたいけど悪いな」
いつも作ってもらう側では申し訳ない。
「餌付けしているんだからいいんだ」
冬真は笑った。正直だな。まあ、実際俺もすっかり餌付けされてしまい、弁当の中身が楽しみになってしまっている。
「やっぱりまずは、アレだろ!」
関東最大級、最大時速110km、高低差約80m、最初の落下がほぼ垂直にそそり立ち、その後幾重にもぐねっているジェットコースターを指さした。
「朔太は、絶叫系好きなのか?」
「えっ! 好きじゃないやつなんているの? ここ、三つくらい絶叫系あるんだよな! 俺楽しみー」
「そうか……」
心なしか、冬真の顔色が優れない気がする。
「どうした?」
「いや、朔太が乗りたいなら乗ろう」
「冬真もしかして、絶叫系初めて? 大丈夫大丈夫! ぜってー楽しいって!」
「うわああああああああああ!!!」
「おひょーーーーーーーーー!!!」
「ぎゃあああああああああ!!!」
……。
「あー楽しかった~!」
ガッチリ押さえつけられていた安全バーが上がると、俺は立ち上がりながら大きく伸びをした。
「次、上から吊り下げられる系のやつ乗ろうぜ!」
出口へ向かいながら後ろを振り返ると、冬真がよろよろとゾンビのような歩き方で乗り物から降りてきた。
「大丈夫か冬真?」
「……」
返事がない。
平行な目線でうつむき加減に虚空を見つめている。
とりあえず、近くのベンチに座らせて、冬真が持ってきたアイスコーヒーをコップに入れて差し出した。
「ごめん、せっかくのデートなのに……」
冬真は相変わらずうつろな目で地面を見つめながら言った。
「いや、俺こそ絶叫系初めてなのに、いきなり一番えぐいやつ乗せちゃってごめん」
「まあ、絶叫系っていうか、遊園地自体が初めてだったんで……」
そうなのか。まあ、お店やってるおうちって、お休み少ないもんな……。
「でも、朔太が楽しいものなら、俺も楽しみたい。穏便な奴から順に慣らしていきたいと思うので、がんばる」
冬真はそう言って力なく笑った。
「よっしゃ、次はメリーゴーランド行こうぜ! 超平和じゃん!」
メリーゴーランド、乗り物に乗りながらシューティングするアトラクション、ゴーカートなど、様々な種類の乗り物を楽しんだ。
「ゴーカートまでは大丈夫だ、というのはわかった」
芝生の広場で、冬真がお昼ごはんを出しながら言った。
今日のお弁当は、サンドイッチだ。
普通のパンじゃなくて、ライ麦パンっぽいおしゃれなパンに、サニーレタス、トマト、照り焼きチキンが入ったもの、ごぼうサラダが入ったものなど、バリエーション豊富に詰め込まれている。どれもすごくおいしそうだ。
「これも全部冬真が作ったのか? すごいなあ……」
「この前うちの店でコーヒー飲んだ時、デートならタダで淹れてやるって言っただろ。だからコーヒーに合うヤツを作ったんだ」
そうだ、先に冬真に飲ませたが、あのアイスコーヒーも、俺のために淹れてくれたのか。
サンドイッチは、パンがきちんとトーストされていて、外側はカリっと、中はふんわりもちっとしていて、とてもおいしかった。具もどれもおいしい。
口の中に残ったサンドイッチの後味を、アイスコーヒーで流し込む。
「このアイスコーヒーも苦くない」
「苦いのが苦手みたいだから、水出しコーヒーにしたんだ」
前の晩から挽いたコーヒーをお茶パックに入れ、水を張ったポットに入れておくらしい。
「ガムシロップとポーションミルクも持ってきてるからな」
すごい至れり尽くせりだ。俺はすっかり餌付けされてしまっている。
「午後はさ、もしも乗れそうだったら、うさちゃんコースターに乗ってみないか?」
と俺は提案してみた。
うさちゃんコースターは、小さい子向けのエリアにある、小さなジェットコースターだ。ほとんど落差もないから大丈夫だろう。
「俺に気を使ってくれてありがとう。やっぱり朔太は優しいな」
と冬真は微笑んだ。
先頭にうさちゃんの顔をつけたコースターが、ゴトン、ゴトンと音を立てて傾斜を上っていく。
隣の冬真を見ると、顔面がこわばっているのがわかる。
ガーーーーーッ!
おっ、意外なスピード感だぞ?
上からの安全バーがなく、車体が大げさじゃないから、けっこう丸出しで疾走している感じがあって、なかなか楽しいな。
ガタガタガタガタと車体がレールを切りつけながら走っている感じも味わえて、悪くない。
「いや~、意外と楽しかったな!」
ゲートを出て冬真を振り返る。ちゃんと楽しめただろうか。
「……」
返事がない。
見ると、冬真は、自分の膝に顔を伏せていた。
「すごい怖かった……」
「いやでも、このくらいが『スリルがあって楽しかった』というレベルだから、大丈夫だ」
またちょっとベンチで休憩しながら冬真は言った。
「ごめんな」
「いや、ホントに、うさちゃんコースターが俺にはちょうどいいんだ」
なんか、冬真をフォローするつもりが、逆に慰められてしまった。
冬真はまだ少し顔色が悪い。
「大丈夫か? もう帰るか?」
「いや、せっかくだし、あんまり疲れないものだったら大丈夫だ」
俺が声をかけると、冬真は遊びというには真剣すぎる立ち上がった。
でもまだ座っていられるやつのほうがいいだろう、というわけで観覧車に乗ることにした。
一周20分くらいで、ゆっくり景色を楽しむことができる。
「夕焼けきれいだなあ~」
俺は窓の外を見ながらつぶやいた。
「朔太は今日、楽しんでくれたか?」
向かいの席に座った冬真が言った。
「もちろん! すっごく楽しかった!」
「あんまり絶叫系乗れなくてごめんな」
「いや、俺こそ冬真が絶叫系苦手なのにごめん」
どちらかというと、悪いのは俺ではないだろうか。
「そういうのも含めて、『デート』ができたっていう感じで、俺は楽しかったよ」
と冬真は微笑んだ。
で、デートかぁ……。
そう言われると、あらためてドキドキしてしまう。
早く観覧車が地面に着かないかな、とそわそわしてしまった。
冬真が、向かいの席から隣に移動してきた。
「な、なんでこっち来るんだよ」
「いいじゃん。ダメ?」
いや、ダメっていう理由は特にないけど……。
「朔太は、俺のこと、好きになってきた?」
冬真はそう言いながら、さらに距離を詰めてくる。
「ま、まあ、嫌いじゃない……かな」
「じゃあ、キスしてもいい?」
そう言って冬真は顔を近づけてきた。
夕日に照らされた、吸い込まれそうな瞳が俺を見ている。
しなやかな指が、耳にかかった俺の髪に触れた。
──どうしよう、どうしよう。
心臓がバクバク言っている。
観覧車なんか乗るんじゃなかった。二人きりの密室じゃないかこんなの。
「だ、だめだよっ」
俺は必死に言った。
「どうして?」
冬真は俺の髪をいじりながら、あやすように言ってくる。
「だって、言ってたじゃん。結婚するまでは、セ……その……」
「セックスしないってこと? キスとセックスは全然違うだろ」
苦し紛れの俺の言い訳は、すぐに反論されてしまった。
「あ……う……」
俺は真っ赤になって、何も言えなくなってしまった。
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