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第7話:えっちなことは何もされていないはずなのに

 あからさまに戸惑う俺を見て、冬真はくすくすと笑った。 「じゃあ、今日はいいよ。その代わり、手をつないでもいい?」 「うん……」  俺がうなずくと、座席の上に置いた俺の右手に、左手を絡めてきた。  握手みたいなやり方じゃない、指の間に指を絡ませる、カップルが手をつなぐやり方だ。  はわわわ……。  顔に血が上り、動悸が速くなるのがわかる。  胸がぎゅぎゅぎゅっーっと締め付けられるように苦しくなった。 「朔太、かわいいね」  冬真の顔が近づいてきて、鼻先でささやきかけた。  やっぱりキスをされてしまうのかと身を縮めたが、冬真はおとなしく顔を離した。  代わりに、指を絡めた俺の手を持ち上げて、微笑みながら頬ずりし始めた。  冬真の滑らかな肌が、俺の手の甲の上を滑る。  な、なんか……、む、胸が苦しい……。  冬真は俺の手を頬に当てたまま、今度は、絡めた指を緩めたり、またしっかりと絡めたりし始めた。  手を緩める時に、冬真の指先が俺の手のひらに触れると、手のひらから心臓、そして下半身に、甘い痺れのような感覚が広がる。  ──なんだこれ? 体が熱い。  頭がぼうっとして、動悸のあまり息遣いが荒くなるのを感じる。  キスもしていない、抱きしめられたわけでもない。ただ手を絡めているだけなのに……。 「手のひら、感じるんだね」  俺の様子がおかしいことに気づかれてしまった。こういうの「感じる」って言うのか? 言うのか……。  冬真は俺の手のひらに人差し指を当て、つつっと手のしわをなぞった。 「あっ……」  変な声が出てしまった。  冬真は、艶めかしい視線を俺に送りながら、手をいったん頬から離し、手の甲の側から指を絡めて、自分の顔に俺の手のひらを向けると、手のひらの中心をぺろりと舐めた。 「はぁんっ……!」  全身に電流が走ったような衝撃が走り、また妙な声を上げてしまう。 「ふふ、気持ちいいんだ」 「ち、違っ」  否定しようとしたけれど、うまく言葉が出てこない。 「朔太って敏感だね」  冬真はそう言うと、また俺の手に舌を這わせた。  ちゅぷ、と音を立てて、俺の人差し指を口に含む。  冬真にくわえられている部分が、じんわりと熱くなっていく気がする。  軽く歯で挟んで固定しながら、冬真は、ぺろ、ぺろ、と俺の指をゆっくりと舐めた。  ぬるついた感触が指先から伝わり、ぞくぞくとした快感が下半身へと突き抜けていく。  体に力が入らない。息が荒く、前かがみになってしまう。  冬真が、指先から指の付け根のくぼみに、つつつーっと舌を這わせると、まるで全身を舐められているように、体全体に痺れが走る。  「あ……、あ……」  まるで、俺の体の内側まで、冬真に支配されてしまっているみたいだ。  このままじゃ、まずい……。  "まもなく、終点です。お降りになる際には、足元にご注意ください"  その時、天からの救いの声、明るいアナウンスの声がゴンドラの中に響き、冬真は俺の指から唇を離した。  はぁ……、はぁ……。  一歩も動いていないはずなのに、俺はまるで走り込みをした後のように息が荒く、鼓動が速くなっていた。  ゴンドラが速度を緩め、ガチャッと扉が開いた。  俺は慌てて立ち上がり、表へ飛び出した。  手すりにつかまりながら、よろよろと観覧車乗り場から這い出し、少し離れたところで立っていられなくなって、地面にしゃがみこんでしまった。 「大丈夫か?」  後から来た冬真が声をかけてきた。 「大丈夫じゃ、ない……」  ──全然大丈夫じゃない……。  しゃがみこんで、膝の上に組んだ腕の中に頭を突っ伏したまま、俺は言った。 「……冬真さ……。こういうの、塁さんに教わったりするの?」  普通の高校生が、こんな仕草スムーズにできるわけがない。 「そんなわけないだろ。父親とそんな話する子供いるわけないじゃん。親父だってああ見えて常識はあるから、俺から見えるところで女口説いたりイチャイチャしたりしてないよ」 「そうか……ごめん、失礼なこと言ったかも」  突っ伏したまま一応謝る。  混乱した頭のまま動けなくなって、俺はそのまま固まってしまった。 「朔太。信じてもらえないかもしれないけど、俺、つきあうの、朔太が人生で初めてだから」  頭上から、冬真が声をかけてきた。  ──なんと。あのエロさで、俺が人生で初めての交際相手なのか。すげーな。  だとすると、冬真はホントにサラブレッドなんだな……。淫乱サラブレッドって言うと、なんとなく女性っぽいから、「ドスケベサラブレッド」だろうか。「エロエロサラブレッド」かもしれない。 「じゃあ、ああいうの、なんか自然にやってるのか?」 「自然に、というか……なんかやりたくなったから」  ──すごい。天然であの仕草ができるのか。天才だな。  俺は、ボーっとした頭のまま、ベンチに腰掛けてうつむいた。  隣に冬真が座った気配がした。  何から話していいのか、よくわからなくなってきたが、このまま漫然とデートを続けていくのはまずい、という気がしてきた。 「ちょっと、疲れちゃった……」  どう言ったら冬真を傷つけないだろうかと考えて、とりあえずそれだけ言った。 「そうか……」  冬真は気まずそうに言った。気まずくなるくらいならあんなエロいことするなよ。  俺は立ち上がり、勇気を出して言ってみた。 「あの、ごめん、今日は楽しかったんだけど、色々……、冬真との色々なこと……少し考えさせてもらっていい?」  冬真は、なんとも言えない顔をしていた。 「あ、冬真が嫌いとかそういう意味じゃないんだ。ただちょっと今日は混乱してて……。また今度ちゃんと話そう?」  いたたまれなくなって、俺はダッシュでその場から逃げ出してしまった。

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