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第13話:夏休み! 健全デート計画

 結局俺は期末テストで、赤点どころか平均点をも上回る成績を出してしまった。 「いや、そんなにあのごほうびが大好評だったとは……」  放課後、ファーストフード店で採点の済んだ解答用紙を見せると、冬真はわざとらしく驚いてみせた。  ちなみに冬真の家でないのは、エッチなことをされると困るからだ。 「ごほうびのおかげじゃないから!」  俺は弁解した。冬真が家事も勉強も頑張っている姿を見て、ちょっと反省したのだ。 「ていうか、セ……エッチなことはしないんじゃなかったのかよ」 「セックスはしていない」  冬真は涼しい顔で答えた。そりゃそうなんだが、あれは、「ほぼセックス」ではないのだろうか……。 「ま、まあいいや……」  俺はそこは深く追及しないことにした。 「え~と、夏休みの俺の予定だけど」  と言って、俺はスケジュール帳を冬真に見せた。 「ここからここまでと、ここからここまでと、ここからここまでが部活で、ここからここまでが合宿で……」 「ちょっと待て」  夏休みデートの日程を決めるために、俺が予定を教えると、冬真がスケジュールを指さした。 「ほとんど部活じゃないか!」  いや、体育会系の部活なんてそんなもんだろ。  それでも、学期中に比べれば、空いている日は、あるほうだと思う。 「そういえば俺、朔太の部活やってるところ、見てみたいんだよな。大会とかって見に行けないのか?」  俺も、家族や友達に応援に来てもらえたらと思うこともあるのだが、基本的に部員全員で一緒に行って一緒に帰って来るので、他の人が見に来ていても、話したりするタイミングはない。  それに、俺もこの高校もそんなに強くないので、冬真だけ見に来ていたら悪目立ちするだろう。 「大会を見に行くのは難しいけど、普段の部活を見るぶんにはかまわないと思うぞ。夏休みでも校門は開いてるし、冬真は家も近いんだから、勝手に見てていいよ。そしたらさ、帰りに一緒にどっか寄って帰ったりもできるじゃん」 「それいいな」  学校では俺たちの関係は秘密にしているので、冬真と一緒に帰ったことはない。  なので一緒に帰るというのには、ちょっと憧れがある。いかにも「つきあってる」っぽくっていいのではないだろうか。  さておき、デートの日程だが、体育会系の部活をやっていたら、予定が埋まりがちなのは仕方ない。 「ここの月曜日だったら空いてるぞ」 「ダメだ。店が休みだから親父が家にいる」 「家にいると、なんでダメなんだよ」  どうせえっちなことできる場所がほかにないからだろ。 「えっちなことができないからだ」  当たってた。そして正直だった。 「お前脳みそスケベすぎるんだよ。たまには、健全なデートでもしてみろ!」  公共の場でスケベな発言して恥ずかしくないのか。俺は一応声を潜めて、でも厳しく言った。 「よし、次のデートは、俺がどこに行くか決めるからな!」  * * * 「はい、これ冬真の分のチケットな」  夏休みの映画館は、にぎわっていた。  今日は、俺の考えた健全なデートの日だ。デートで映画って行ってみたかったんだよな。  でかいポップコーンを買って座席につく。  今日は俺には秘策があった。  俺の左隣が冬真の席だ。  俺はポップコーンを左隣のドリンクホルダーに置く。  そして、上映中、ポップコーンは食べない!  ふふふ、これで映画に集中できるぞ。  案の定、上映中、隣からポップコーンに手が伸びてくる気配がしたが、残念ながらそこに俺は手を伸ばさない。  観覧車の時のようなことにはならないぞ。  おかげで俺は、ハリウッドアクション映画をスカッと楽しむことができた。 「あー楽しかった! すごいよな~」  微妙な表情の冬真を尻目に、俺は残ったポップコーンを貪り食いながら、映画館を後にした。 「俺、ポップコーン食べ過ぎたかもしれない……」  うん、しょっちゅう手が伸びてきてたからな。 「よし、じゃあ運動のために次はボウリングな!」    がこーーーーーん。  冬真はボウリングが初めてらしい。またガーターだ。  がこがこがこがこーーん!! 「いえーい! ストライク!」 「……ボウリングって……なんの、意味があるんだ……?」  冬真は微妙な表情だ。  ボウリングをする意味と言われても。 「楽しいからだろ! たまにはお前も健全な遊びをしろよ!」  俺は冬真を指さして言った。 「まあ、はしゃいでる朔太がとってもかわいいから、それを見られる、という意味はあるな……」 「な、何言ってるんだよ……」  がこーーーーーん。  俺はとたんに力が入らなくなって、ガーターになってしまった。 「それじゃーまたな!」  次の駅で乗り換えるので、電車の中で俺は冬真に手を振った。  人通りの多いところで解散することで、余計なことをする暇を与えない作戦だ。  今日は一日、健全に楽しくデートできて楽しかった。  ドスケベサラブレッドの冬真は、さぞ悔しがっているだろう。  ……と思っていたら、冬真は、 「朔太。今日は、普通にデートできて……なんか楽しかった。……ありがとう」  などと殊勝なことを言ってきた。 「……お、俺も……」  なんか、冬真が普通なのでかえって照れてしまった。 「ま、またな!」  俺は開いたドアからホームに慌てて降りた。  電車が去っていくと、胸がきゅっと苦しくなった。  ──キスくらい、すればよかったかな……。  例えばカラオケとかだったら……。  いやいや、何を考えているんだ。  ドキドキして体が熱くなってきてしまった。俺も健全じゃなくなってきてしまったのか。やばいぞやばいぞ。

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