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第21話:結婚(概念)するのでセックスします
「なあ冬真、大晦日、俺んちの近所のお寺に、一緒にお参りにいかないか?」
二学期の終業式の日、俺は冬真を誘った。
校舎から校門へと続く並木道の木々は、すっかり葉が落ちて、季節の移り替わりを感じる。
文化祭の後しばらくして、桃香さんは、引退を発表した。
どこの誰かは秘密のまま、家族がいることも公表し、子供のためにどうかそっとしておいてほしい、と付言した。
しばらくの間は、下世話な週刊誌の詮索もあったみたいが、事務所(マネージャーの、ドウェイン・ジョンソン(仮)含む)がどうにかしてくれたようで、塁さんや冬真がさらされることはなかった。
桃香さんは、冬真の家に引っ越してきて、一緒に暮らし始めた。
二人暮らし用のマンションのため、少し手狭だし、油断すると塁さんと桃香さんがイチャイチャしているところに出くわしてしまうので気を使う、と冬真はぼやいていた。
「だから、大学進学を機会に俺が家を出ようと思うので、朔太も一緒に住めるように、勉強がんばろうな」
と言われ、俺の志望大学は、地方の国立大学に勝手に決められてしまった。
二年生の文化祭が終わると、部活は引退しなくちゃいけないので、俺も放課後の時間が空くようになったし、冬真の方も、桃香さんがお店で働くようになったので、一緒に勉強できることになった。
冬真の家が使えないので、エッチじゃない普通の勉強だ。
「まだ二年生なのにこんなに勉強させられるなんて、あんまりだ……。国立大学なんて、俺無理だよう……」
と涙目になったら、
「まだ二年生だから、まだ間に合うぞ。結婚するんだから一緒に住むのは当たり前だ」
と言われた。
結婚……。結婚かぁ……。
あとはたまにデートに行ってチューするくらいで、今年度前半のエロエロが嘘のように、健全なおつきあいをしている。
「大晦日に泊まることになったら、さすがに家族に迷惑なんじゃないのか?」
と冬真が遠慮した。
「へへ……。俺と兄ちゃん以外は、お父さんのほうの実家の博多に帰省するんだ。だから大丈夫だよ!」
向こうのおばあちゃんにも会いたいけど、夏休みにも行ったし、たまにはいいだろ。
「そうなのか。じゃあ行くか」
「わ~い」
周りに人がいないのを確認して、そっと手をつないでみる。
冬真はニッと笑って、俺の手ごと右手をコートのポケットに突っ込んだ。
胸がきゅっとして、手首が痛くもないのにズキズキした。
もしも誰かに見とがめられても、手を離せないな、と思った。
* * *
夜の空気の冷たさに震えながら、俺が待ち合わせ場所の駅に行くと、冬真がバックパックをしょって、すでに待っていた。冬真はいつも、俺よりも早く来てくれる。
抱きつきたいくらいなのをがまんして、声をかけた。
「冬真!」
夜の光に、冬真の濡れたような瞳が輝いている。眼鏡も似合ってるけれど、学校の外で会う眼鏡なしの冬真は、本当にかっこよくて、ドキドキしてしまう。
「寒くないか?」
冬真が優しく俺の頬から耳に手を当てる。
「寒いよ!」
冬真は俺の手に指を絡ませてきた。
「冬真の方が、手が冷えてるじゃん」
俺はついさっきまであったかい部屋の中でテレビを見ていたんだから当たり前だ。
お寺の境内はざわざわと混み合っていた。
このお寺では、お参りをすると、鐘つきに参加させてもらえる。人数制限は特にないので、絶対に108以上ついている気がするけど、皆楽しくついているからいいんだろう。
──冬真と一緒の大学に行けますように……。
俺はいつもより少しだけお賽銭を奮発して、マジメにお祈りした。
「冬真は、108万回つかないと煩悩なくならないんじゃないか?」
「俺の煩悩は、朔太についての一つだけだし、絶対になくならないから問題ない」
人が多すぎるので、俺たちは、二人で一回の鐘つきにまとめられてしまった。
二人で一本の縄を持っていると、なんかちょっと「初めての共同作業」っぽいな。
ドキドキしていると、冬真が、
「なんか、初めての共同作業、みたいな感じだな」
と言ったので、同じことを考えていたことに二人で笑った。
お寺の中でカウントダウンを待って、一月一日になった瞬間、
「明けましておめでとう!」
と言い合った。
ホントはチューがしたかったけどガマンして、おでことおでこをくっつけて笑い合った。
家に戻ってきて、俺の部屋に冬真用の布団を敷きながら、俺は冬真に言った。
「……あのさ、兄ちゃんと俺が東京に残った、って言ったじゃん?」
「うん?」
「兄ちゃんさ、その、結局彼女の家に泊まりに行っちゃって……その……」
俺は、冬真の布団の上に、ぺたんと座った。
「今日、誰もいないんだ……」
めちゃくちゃ恥ずかしい。
「朔太……」
冬真の手が、布団の上に置いた俺の手に重ねられた。
「……もしかして、最初からそのつもりで……?」
「ち、違う! ホントに、今日になって兄ちゃんが、彼女の家に泊まりに行って、2日まで帰ってこないって言い始めて……」
ホントにホントだ。出かける直前に、兄ちゃんから、「うまくヤレよ!」と言われ、ローションとコンドームを渡されたので、兄ちゃんの方は、最初からそのつもりだったのかもしれないけど。
冬真は、黙って俺を抱きしめた。
風呂上りの冬真のいい匂いがする。薄いパジャマ越しに、冬真の体の厚みと温かさを感じる。
冬真がゴクっと息をのむ音が聞こえた。
「……結婚……してくれる?」
冬真が言った。この前俺の家に来た時に言っていたことだ。
体中から火が出そうだ。でも、俺の答えは決まっていた。
「いいよ……結婚……しよ」
俺は冬真のパジャマの背中をぎゅっと握った。
冬真は、俺に優しく口づけした。何回かちゅっ、ちゅっとした後で、唇の隙間から、熱い舌が、ちろちろと入ってきて、俺の舌を探る。
何回キスをしても、毎回ドキドキして体が熱くなってしまう。
冬真は、何度も唇を吸いながら、舌で俺の口の中を撫でまわし、俺の舌を見つけると、自分の舌先でねっとりとからめてきた。
熱い唾液が交じり合って、冬真の口から俺の中に入ってくると、俺はもうそれだけで頭がとろけて、何も考えられなくなり、夢中で舌を絡ませ合った。
「ん……」
全身から力が抜け、倒れてしまいそうになって、冬真の肩に両手でつかまった。
ゆっくり唇を離すと、もう頭を上げていられなくて、俺は冬真の肩にコトンと頭を乗せた。
「朔太、服を脱いで」
冬真が艶っぽい低い声で言った。
「う、うん……」
わざわざ言われると、気恥ずかしいのだが、俺はパジャマの前のボタンを全部外した。
しかし冬真は、
「だめだよ。上も、下も、全部脱いで。結婚するんだから、朔太の全部を見せて」
と静かな声でゆっくりと、でもはっきりと言った。
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