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先輩×後輩
先輩は濡れた手のひらを見て、僕の涙に気づいた。
「優しくなくていい。好きにしていいから。ぼくは、先輩とのえっちはなんでも気持ちいいから。すぐイっちゃうからつまんないと思うけど、せんぱいが、楽しめるようにがんばるから、だから、最後にしないで。おねがい、おねがいします」
言うつもりのなかった言葉と、言おうと思ってた言葉が涙と一緒に溢れ出してきた。興味を失われるのが恐い。どうせ続かない関係をもう少し長引かせたい一心で、惰性 で構わないから引き留めたかった。それだけが望みだった。
「なんで」
「え」
「なんでそう思うの」
「だって僕が。僕はたぶん、今の関係が」
「不満?」
「えっちはしたいんです。というか最近は先輩のこと考えると、次のえっちのことばっかり考えてるくらいで――でも、やっぱりそれだけの関係じゃ嫌で」
「わかった」
それは唐突で馴染みのない単語で、僕が驚いて目を見開いても、真面目な顔のまま続けた。
「それって」
「婚約しよう」
「――こんやく?」
「結婚はまだできないから」
「え、そんなことしなくてもえっちしますよ」
今度は先輩が意表を突かれたように黙り、深いため息を吐 いた。
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