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先輩×後輩

「えっち、えっちって。本当にそれ目的だと思ってたのかよ」 「ちがうんですか。だって先輩、えっち楽しんでるじゃん」 「そりゃそうだろ。好きな子を抱いてるんだから」 「す、すきな子?」  ぶっきらぼうで頼りない物言いに、なんだか拍子抜けしてしまった。 「俺が悪い。鈍いの知ってて、利用したようなもんだから。でもさ、ふつう気づくだろ。俺っておまえ以外に優しくないだろ」 「はい」 「あのな、好きでもない子に優しくしてわがまま聞いたり、家に上げたり、キスしたり、触ったりしないんだよ」  先輩が(うつむ)いて喋るもんだから、冗談か本気かどうか判断がつかないけど、ここまで無理をして僕を傷つけまいとする意図は何だろう。髪の間から覗く、耳の先端が赤らんで見えた。 「――好きなんだよ」  ただ、この人が欲しくて、ずっと必要とされる為の理由を探していたけれど見つけられなかった。僕は間抜けで、先輩は馬鹿だ。僕らは何に囚われていたのだろう。いつまでもこっちを見てくれない先輩に擦り寄って、いつも自分がされるよう、耳元まで近づいた。 「すごい。えっちより、ドキドキした」  理性なんか崩壊すればいいと思った。

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