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薔薇が咲く日3

 公園に着き、園内を少し歩く。 「ここ、青い薔薇があるんですよ。青と言っても少し紫ががっているんですけど。DNA改良型はそんな色なんです。吸上げ着色の場合はほんとに真っ青なんですけど、ここはDNA改良型しかないので。でも、青い薔薇自体が珍しいでしょ?」  吸上げ着色がないと言われても普通、青い薔薇自体が珍しいのでどちらか片方でも見れるのは楽しみだ。  実際、今歩いているいる辺りには真っ赤な薔薇が咲き誇っている。 「この薔薇園は約250品種、約20,000株の薔薇があるんです。園内も広いから散歩がてら見て歩くにはぴったりだと思います。今は薔薇の時期なので週末になると人も多いんじゃないかな」  こういうときに時間の決められた仕事じゃなくて良かったなと思う。  締め切りさえ守ればいい仕事だから締め切り間際ではない限り時間を作ることは比較的できる。  平日の昼下がり。天気も良くて初夏と言ってもいい暖かい陽射しで散歩をするには最適だった。  普段は机に向かってばかりで運動なんてしていないからと歩きたいと言ったのだが、そうして正解だったなと思う。暖かな陽を受けて歩くのは気持ちがいい。 「先生」  と声をかけられ、声の方へ顔を向けるとカメラのシャッターを切る音が聞こえた。 「今、すごくいい顔してました」 「薔薇を撮るのはわかりますけど、俺を撮ったって絵にならないし撮っても面白くないでしょう」 「そんなことないですよ。先生の写真が欲しかったから撮ったんです」  そういえば俺の写真が欲しいと言っていたな、と思い出す。 「好きな先生の写真なので嬉しいな」  好き、という言葉にドキリとする。男同士なのになぜドキリとするのか。 「眉間に皺寄ってますよ。眉間の皺は幸せを逃すって言います。だから、ほら。そんな難しい顔しないで。薔薇の花に似合いませんよ」    眉間の皺はお前のせいだろうと言えるのなら言いたい。千屋相手になら言っている。けれど、この薬井さんはそこまで親しいわけではない。  好きな俺の写真が欲しかったとか言っていることがおかしい。聞き流すのがいいに決まってる。そう考えるとすっきりして気持ちの切り替えができる。 「薔薇の写真、また現像して貰ってもいいですか? スマホはあるけど、どうも写真の才能はないようなので」 「もちろん。でも俺も写真は素人だからそれは勘弁してくださいね」 「いえ。桜の写真はとても綺麗でしたよ」  八重桜を見たあとデジカメを買おうかと一瞬考えた。けれど、スマホで撮ったものを見て恐らく構図の問題だろうと思ったのだ。  本を買って勉強してみることも考えたが、もともと絵心があるとはお世辞にも言えないので諦めた。大体一眼レフではない普通のデジカメならスマホで十分だろうとも思うし。  買うなら一眼レフの方がいいんだろうけれど、そこまで高いお金を出してまで写真を撮ることはないからカメラを買おうという考えは捨てたのだ。   「あー、ミラーレスじゃなくてきちんとした一眼レフ持ってくれば良かった」  そう言われて薬井さんが持っているカメラが桜のときと違うことに気づいた。  今、薬井さんが手に持っているカメラは一眼レフではあるけれどレンズ部分が薄めになっていて小型だ。それがミラーレスというやつなんだろうけれど、カメラに明るくない俺には出来がどう変わるのかわからない。 「よくわかりませんけど、一眼レフとそのミラーレスとではできあがりがそんなに違うんですか?」 「最近のミラーレスは普通の一眼レフと変わらないです。ただ俺はミラーレスにはあまり金をかけてないから手持ちの一眼レフとはやっぱり差があって。でも、デジカメよりはいいと思いますよ。ただ、さっきの先生のがな……」  途中まではよくわかったのだが、俺のがなにやらブツブツと言っているけれど訳がわからないので、申し訳ないが薬井さんをそっちのけで薔薇をみることに専念した。

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