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「ときにフィルよ、あの噂は真なのか。リース様が、かの『悪魔の目』をしておられるという噂は……」  なるほど。おおよそそんなところだろうとは思っていたが、今日フィルがここに呼びつけられた理由は、その真相を探るためだったらしい。  目を眇めて尋ねてきた源父に、フィルは真顔で返答する。 「申し訳ございませんが源父様、王命により、リース様の外見については一切の口外を禁じられております。反逆者から御身を守られるためですので、どうかご理解くださいませ」  これは半分は事実であり、半分は建前であった。  王がリースの身を隠すのには、もちろん、その『悪魔の目』が関係している。この国では古来、赤色の瞳は不吉であると忌み嫌われていることから、国王と王配はリースが正式に国王の座に就くその日まで、リースを公の場に出さないよう図らっているのだ。  しかし今から二年ほど前、ちょうど国王の体調が好ましくなくなってきた辺りの時期に、リースが悪魔の目を持つという噂が国中でまことしやかに囁かれ始めた。  城内でも限られた者しか知り得ないその事実を誰が告発したのかは、果たして謎だ。しかし案の定、その噂は民衆たちの間で物議を醸し、リースは国王に相応しくないと唱えるものがでてきてしまった。  もちろん王権継承年齢なんてものは目安に過ぎず、随父の言う通り、それまでに国王の座に空きが出れば、速やかに国王の息子であるエーナが即位するのが通例だ。にもかかわらず、たかが瞳の色一つでここまで分断が生まれるこの世の中が恐ろしい。 「ふむ、王命とあらば仕方あるまいな。しかしフィルよ。リース様の瞳がどうであれ、決して王の座を奪われることのないよう、しかと力添えするのだぞ。この国の伝統としきたりを壊してはならん」  まっすぐとこちらを見て、随父が釘を差してきた。  伝統。しきたり。堅苦しく重たい使命を背負っているのがたった十七歳の少年であるということを、彼らはいかほどに理解しているのだろうか。  生命の源エーナ。王家の血を継ぐ者。確かに、その他大勢の民衆とはわけが違う。  しかし、リースは神ではない。そしてもちろん、悪魔でもない。血も心も通った人間だ。  リースを支持する者も、しない者も、みな何かしらの因縁をつけたがる。好き勝手自分たちが編み出した像を当てはめて、実在する『リース』という少年の気持ちなど、まるでないもののように彼の存在を語る。  彼らにとってリースは、いい意味でも悪い意味でも『人』には見えていないのだ。いつだって、自分の見たいものだけをリースに重ねている。 「留意してまいります」  視線を下ろし、フィルは頷いた。  今ごろ城で国王たちに談判しているであろうリースのことを思い、心が奮い立たされた。

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