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「嘘です、坊ちゃま……そんなこと、あるはずがありません。だって私は、私は坊ちゃまのことを……っ」 「フィル」  まっすぐと目を見て呼ばれて、口にしかけていた言葉が途切れた。  数秒の間を開けて、リースはもう一度、言い聞かせるような口調で言う。 「嘘じゃないんだ、フィル。……わかるだろう?」  問いかける声は苦しげで、そこで初めて、フィルは現実を思い知った。  リースは嘘をついていない。冗談や悪ふざけを言っているわけでもない。リースは本当に、あと十五分もすればアイルに戻ってしまうのだ。 「そんな顔をしないでくれ、フィル。俺はこうなったことを後悔してはいないんだ」 「どうして……っ」  問う声が涙に震えた。  困ったような、呆れたような表情でリースが笑う。 「決まっているだろう。またこうしておまえと会って、話すことができているからだ。……それに俺は、アイルが戻ってきてくれて嬉しいと思っている」 「……え?」  問い返したフィルに、リースは一拍を置いて続けた。 「アイルは、俺の片割れだ。一卵性の双子だったことを考えると、俺の分身と言っても過言ではない。アイルは確かに死産だったが、俺はこれまでの人生、ずっとこの体にアイルの存在を感じていた。いつもすぐそばで、アイルが見守ってくれている気がしていた」 「……」 「だから安心してくれ、フィル。俺はこの体がアイルのものになっている間も、いつでも内側からおまえを見守っている。今までずっと、アイルがそうしてきてくれたように」  そういえば、アイルも同じようなことを言っていたはずだ。自分はこれまで、ずっとリースのそばにいたのだと―― 「し、しかしアイル様は、私のことを『おじさん』と……っ」  困惑混じりに訴えると、リースがふっと肩を揺らした。一変した和やかなその仕草に、しかし、フィルは深い哀愁を覚える。 「そういえば、そんなことを言っていたな。しかし、アイルはおまえのことを『羊さん』とも言っていただろう。当たらずとも遠からずだ。ウォーレンやクラウスにしろ、全くの知らない人だとは思っていないはずだぞ」 「それは……」  いやしかし、やはり執事と羊では大違いだ。もしアイルがずっとリースのそばにいてこの世界を見ていたというのなら、どうしてアイルの精神年齢はああも幼いのだろう。

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