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「奇跡、なあ……。それにしても、一日三十分だろ? フィル、おまえ大丈夫なのか」  ちらとこちらを見て尋ねられて、フィルは答えよどんだ。 「……何がです」  ややあって静かに問い返すと、クラウスは苦い表情を浮かべる。 「何がってそりゃあ……だっておまえ、もうずっとリース様のことを――」 「クラウス。あなたが何をどう認識しておられるのかわかりませんが、私はリース様が生きておられたこと、そしてまた、リース様の大切なご弟様、アイル様が目を覚まされたことに対し、これ以上ないほど感謝しています。ですからこれ以上、私の内情を勘ぐるような発言は控えてください」  必要以上にはっきりとした口調で、フィルは言った。  クラウスは無言でじっとこちらを見つめる。その視線に言い得ぬ後ろめたさを覚えて、フィルはぱっと話題を変えた。 「それよりクラウス。あなたは本当についてきて大丈夫だったのですか。お体に障ったのでは?」 「そりゃあ、館のベッドで寝ておけるならそれほど楽なことはねえけどよ。こうなったのは、俺の護衛不足だったせいもあるだろう。おまえ一人城に向かわせて、自分は安全圏で知らん顔ってわけにはいかねえからな」 「それは……」  何だかんだ人一倍責任感の強いクラウスに、フィルは感心する。ゆっくりと首を横に振った。 「クラウス、誤解しないでください。リース様が事故に遭われたのは、何もあなたの護衛不足だったせいではありません。大体、馬車の外側から放たれた弓に対し、一体どう護衛ができるというのです」 「……ま、それもそうだな。だが俺は、自分がついていながらリース様をああも危険な目に遭わせてしまったことを悔やんでも悔やみきれねぇ。おまえにも、申し訳ないと思っている」 「そんな……」  フィルはそこで初めて、ついさっきクラウスにかけられた『大丈夫なのか』という言葉の真意を悟った。  クラウスは何も、無闇矢鱈とフィルの内情を探ろうとしていたわけではないのだ。どころかリースやフィルに負い目を感じ、今こうしてその懺悔を口にしている。  何と返すべきか俯いて考えているうちに、「それにだ」とまたクラウスが声を発した。 「リース様の作戦を聞いた限り、俺がいたほうが話に信憑性が増すだろう。……まあ、あの馬車の残骸を見りゃ一目瞭然ではあると思うが」 「ええ、仰る通りです。王様方には、事故に遭われたリース様が王座を引き継げないほどの重症を負ってしまわれたと信じてもらわなければなりません。そのためには馬車の残骸を確認してもらうことも一つの手段ではありますが、実際に大怪我を負われたクラウスの姿を見てもらうほうがよほど効果的ではあるでしょう」

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