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「入室の許可が得られました。陛下はご様態が優れませんので、長時間の滞在はお控えください」  厳重な扉の前に立つ家来に告げられて、フィルはクラウスとともに国王の寝室へと足を踏み入れる。ベッドに横たわる国王と、その傍らに腰掛ける王配の姿を認めるなり恭しく頭を下げた。 「ご無沙汰しております国王様、王配様。突然の訪問で申し訳ありません」  顔を上げると、国王と王配は揃って驚いた顔をしてクラウスを見ていた。 「クラウス、その体はどうしたのだ。ひどい怪我ではないか」  尋ねる王配の横で、国王が側近に指示を出し、椅子を用意するよう図らってくれる。 「恐れ入ります」  手を貸しながらクラウスを椅子に座らせ、フィルも頭を下げて席についた。痛ましい目でクラウスの怪我を見る国王と王配に、フィルはおずおずと切り出す。 「国王様、王配様……大変申し上げにくいことなのですが……」  一呼吸置き、重々しく事件のことを打ち明けるなり王配が目を見開いた。 「何⁉ 崖から転落しただと⁉」 「……はい。茂みから馬車馬に矢を放たれ、防ぎようもありませんでした。護衛として同席していたクラウスは右手右足を骨折する大怪我を負い、リース様に至っては……」  王配と国王が、無言で息を呑む。数秒の間を開けて、フィルは続けた。 「リース様に至っては、馬車の下敷きとなっていたことが災いして、金輪際自力では起き上がることができない体となってしまわれました。また視神経にも重大な損傷をきたしていることから、両目とも完全に視力を失っておいでです」 「なんとっ――」  王配は絶句した。  リースの実の親にこのような嘘をつかなければならないことに心苦しさを覚えるも、リースを後継者争いから逃れさせるためには仕方がない。 「私がおりながらこのようなことになってしまい、誠に申し訳ありません。今後のリース様の介護は、私が責任を持って引き受けるつもりでございます。館の使用人たちもみな、リース様を支えるために生涯を捧げると誓っております」 「心構えは立派だが、フィル。よもやそのような状態のリースを、いつまでも離れの館に住まわせておくわけにはいかないだろう。館の使用人含め、速やかにリースを連れて城に戻ってくるべきではないか」  ごもっともな王配の指摘に、フィルはひとまず頷いてみせた。 「はい、王配様。私も一度はそうするべきだと考えたのですが……」  すっと、含みを込めて足元へと視線を下ろす。黙って話を聞いていた国王が、そこにきて静かな声を発した。 「……リースが嫌だと、そう言ったのだな」

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