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 月の光に照らされてぼんやりと浮かび上がる穏やかな寝顔を、口を噤んでじっと見つめる。  遠方に聳える城まで出向き、国王と王配に会って直接話をするという心身ともに苦労した一日だったが、まさかリースに会わずして眠りに就くわけにはいかない。時折激しい睡魔に呑まれそうになりながらも、フィルは何とか意識を繋ぎ止めてそのときを待った。  ――あと二分……。  壁に掛かった時計を見て、鼓動が早まる。  ――本当に、帰ってきてくださるのだろうか……。  非現実的なことが起こっているだけに、もしかしたらを思うと不安だった。  息を潜めて、じっと待つ。一秒、二秒……時が経つのがこんなにもゆっくりに感じたのは初めてだ。  カチッと静かな音を立てて時計の針が深夜二時を示したとき、ドクンと一際大きく心臓が脈打った。 「リ、リース坊ちゃま……」  おずおずと、背中を向けるリースへと声をかける。返事は聞こえてこない。 「坊ちゃま! リース坊ちゃま!」  耐えきれず、フィルは声を荒げた。リースの肩に触れ、ゆっくりとこちらに振り向かせる。 「ん……フィル……」  薄っすらと開かれた瞼から覗く瞳の色を、フィルはごくりと息を呑んで見つめた。  ややあって、呆然と呟く。 「……リース、坊ちゃま」  赤色だった。間違いなく、リースの瞳だった。 「フィル……」  言いながらのっそりと身を起こしたリースを、フィルはきつく抱きしめる。 「坊ちゃまっ。リース坊ちゃま……っ」  実に、二十三時間三十分振りの再開だ。もし、あれきりリースが目覚めなければどうしようかと、不安で堪らなかった。  腕の中の体温に、これ以上ない安堵を覚える。たとえ同じ体であろうと、同じ声であろうと、アイルでは決して満たされることのない幸福感だ。 「フィル、苦しいぞ」  苦笑混じりに訴えられて、フィルははっとした。慌てて腕を緩め、リースの顔を見る。 「も、申し訳ございません坊ちゃまっ。つい……っ」 「いや、構わない。それよりフィル、ずっと起きていたんだろう。悪いな、俺のために」 「とんでもございません! 坊ちゃまが目覚めておられる時間を、一秒でも無駄にしたくなかったのでございます。謝罪などよしてください」  慌てて言うと、「そうか……」とリースは苦笑した。 「では、謝罪はやめて礼を言おう。ありがとう、フィル。俺も一秒でも長くおまえとの時を過ごしたいと思っている」 「坊ちゃま……」  瞬間、一日三十分という制限をありありと実感して胸が苦しくなった。こんなに思い、思われているのに、何ゆえ現実はこんなに残酷なのだろう。

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