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 それから数分間、手短に国王たちとの会話を説明して、ひとまずその話題は切り上げられた。すると今度はリースのほうから、フィルが留守にしていた間のアイルについて教えてくれる。 「ひとまず読み書きからと思ったんだろうな。必死に教材を見せて言葉を学ばせていたが、あれは骨が折れる作業だ。話を聞かず落書きするわ脱走するわで、ウォーレンもずいぶんと手を焼いているようだった」  困ったように肩を竦めるリースを見て、フィルは苦笑した。 「それは大変そうですね。……しかしよかったです。どうやらウォーレンも、今ではきちんとアイル様を受け入れてくれているようですので」 「というより、あそこまで豹変していて俺だと言い張られても困る。……俺は素っ裸で風呂を飛び出したりはしないからな」 「ああ……」  数時間前の出来事だ。何でもアイルは裸になると激しい開放感に駆られるようで、以前のお着替えのときよろしく、風呂から脱走して辺り一面を水浸しにしてしまったのだ。  自分の体をしてそのような大胆な行動を取られた日には、リースも堪ったものではないだろう。 「悪いなフィル。おまえもアイルには手を焼いているだろう」 「いえ、そんなことは……」  ない、とは言い切れず、微妙な沈黙が生まれた。 「その、抑制剤の件なんだが……」  ずばり、考えていたことを口にされてドキリとした。 「不愉快な思いをさせてすまない。俺がきっちり叱ってやれればいいんだが……」 「そんな、お気になさらないでください。何も知らないのであれば、気になるのは当然のことです。それより私のほうこそ……上手く説明することができず、申し訳ありませんでした」  事実、フィルは犯罪者ではない。人を襲ったことなんて一度もないし、襲いたいと考えたことだって一度もない。しかし、これまでの歴史上ペニンダが起こしてきた数々の極悪非道な犯罪を思い返せば、社会から忌み嫌われ、低俗と罵られるのも無理はない。  自覚していても、改めてその事実をアイルに説明しなければならないとなると――なおかつ、それをすぐそばでリースも聞いているのかと思うと、とても素直には打ち明けることができなかった。 「……ピーチップ王国憲法第七十条。未去勢のペニンダは一日一錠の抑制剤を服用し、月毎に定期検診を受けなければならない」 「……坊ちゃま?」 「もしこの法律がなければ、おまえは抑制剤を飲むのを止めるか」 「はい?」  突然の質問に、フィルは目を瞬いた。  逡巡の後、静かに首を横に振る。 「いえ。私が抑制剤を服用するのは、何も法律で定められているからではございません。人としての道を踏み外し、他人の人権を脅かすことのないよう、法律の有無は関係なく抑制剤を服用いたします。もし仮に抑制剤が存在しない世の中だったのであれば、そのときは迷わず、この男根を切り落とす所存にございます」

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