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「それでね、僕、昨日はリースお兄ちゃんとフィルがお話してる夢を見たんだよ。何を話してるのかはよくわからなかったんだけどね、最後は二人でぎゅっと抱きしめ合ってたんだよ」  翌朝、揃って朝食を取っている最中にアイルが嬉々として打ち明けた内容に、フィルは思わずスープを吹き出しそうになった。 「ア、アイル様……それはまたずいぶんと変わった夢ですね。しかしまあ、夢なんていうのは往々にして出鱈目なものですから……」  たじたじとフィルは弁解する。  もしやリースの魂が目覚めている間の記憶が、アイルの中にも薄っすらと残っているのだろうか。アイルの魂に入れ替わっている際、リースがアイルの言動を全て把握していることを鑑みるとありえない話ではない。  それに考えてみれば、アイルは事件をきっかけに魂が蘇る前から、リースの見たことや聞いたことを薄っすらと記憶していると言っていた。リースとアイルで記憶の差があるのは、やはり、元がリースの肉体ゆえだろうか。  さておき、今この場で昨晩の出来事を語られるのは具合が悪すぎた。 「そ、それはさておきアイル様。昨晩はよくお眠りになれたようで、安心いたしました。一人は心細いとおっしゃっていたものですから……」  何とか話をすり替えようとしたフィルに、アイルは元気よく首を縦に振る。 「うん! 僕、フィルがおっきくてあったかい手で慰めてくれたおかげで、すっきりして気持ちよく眠れたよ! ありがとうフィル!」 「ぶはっ――」  吹き出したクラウスに続き、ウォーレンがぎょっとしたような顔でこちらを見た。動揺からスープが気管のほうに入ってしまい、フィルはげほげほと咳き込む。  ……いや。確かに昨晩、みなに嫌われているのではと落ち込むアイルの頭に手を置いて、慰めてやりはした。したけれど、今のアイルの言い方だと、周囲に変な誤解を招きかねない。双子相手に見境なく嫌らしい接触を図っているなんて思われては、フィルの信用問題に関わってくる。  現にフランツは顔を赤らめ、シモンも驚いた表情をしてこちらを見ていた。 「そ、それはよかったです、アイル様。私がアイル様の頭を撫でて差し上げたことで、落ち着いて熟睡することができたのですね。お役に立てたのであれば光栄です」  頭を撫でていただけという事実を強調して、フィルはぎくしゃくと微笑んだ。みながほっとしたように肩を下ろすのが、逆に堪える。同じくペニンダであるクラウスだけが、面白可笑しそうにケタケタと肩を揺らして笑っていた。  ペニンダとして生まれた以上、エーナやディオからは少なからず警戒心を抱かれる。性別単位で前科がありすぎるゆえ、エーナやディオならば問題視されない程度の言動でも非難されやすいのだ。

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