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 ――ど、どういうことだ……。一体なぜこんなことに……。  信じられない状況に、フィルは頭を抱えて混乱する。  過去にも一度、似たような体験をしたことがあった。あれは確か十歳のとき、まだ両親と一緒に暮らしていた頃だ。うっかり抑制剤を飲み忘れ、ちょうど今のような症状に苛まれたことがあったのだ。  高熱が出て魘されているにもかかわらず、随父からは心配されるどころか、なぜきちんと抑制剤を飲まなかったんだと激怒された。どころか次同じミスをしたら去勢するからなと戒められ、無理やり抑制剤を口に押し込まれた挙句、その日は一日中部屋の中に閉じ込められて食事も与えてもらえなかった。  一度発情状態になったペニンダは、抑制剤が効くのにも時間がかかる。定期的なマスターベーションを怠っていた場合、なおさらその反動は大きかった。  当時、ただでさえペニンダの性欲は下劣で卑しいと教育され、自らの性にコンプレックスを抱えていたフィルは、どうしても我慢できなくなったときを除いて自慰行為を避けていた。その結果、たった一日抑制剤を飲まなかっただけで体がオーバーヒート状態となり、擦っても擦っても精液が溢れ出すというとんでもない惨事となってしまったのだ。  翌朝、外側からかけていた鍵を解錠し、部屋の中に入ってきた源父は、ぐしゃぐしゃのベッドでぐったりと横になるフィルを見て浅いため息を零した。随父のように怒り散らすでもなく、慰めてくれるでもなく――ただ自らが産み落としたあまりにも下等な生物を目の当たりにして、心底がっかりした態度でため息を一つ零したのだ。  横に立つ随父に臭いからとっとと後始末をしろと言われ、フィルはろくに体力も回復しきらないままシーツを抱えて風呂場に向かった。極寒の季節だったにもかかわらずお湯を使うことは禁止され、冷たい水で必死に自身の穢れを洗い落とす傍ら、ふと、あまりの惨めさに消えてしまいたいと本気で思った。  たった一日、うっかり抑制剤を切らしただけでその有様なのだ。媚薬を盛られたわけでもなければ、誘惑されたわけでもない。勝手に発情し、勝手に勃起して、止めどなく精液を垂れ流す――そこに知性などというものは欠片も感じられない。  以降、フィルは嫌でも定期的にマスターベーションを行い、抑制剤の服用も徹底した。もしまた飲み忘れていたらと思うと不安で、過剰摂取をして怒られることもあったくらいだ。 「……」  ちらと、机の上を見る。瓶に入った抑制剤を眺めながら、必死に数時間前の記憶を辿った。  ――間違いない。抑制剤はきちんと飲んだはずだ……。  昨晩に引き続きまだ抑制剤に興味があるらしいアイルにじっと観察されながら、気まずくもしっかりと服用したことを覚えている。  ――おかしい……だったら一体なぜ……。  思った直後、またビクンと大きく体が跳ねた。熱を持った中心が、徐々に明確な形を成してきている。

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