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「なっ――」
絶句するフィルをよそに、ガチャリとドアノブが捻られる。
「坊ちゃま……っ!」
部屋の中に入るなりちらとこちらの様子を確認して、リースは速やかにドアを閉じた。
「すまないフィル。アイルが抑制剤をすり替えたせいでそうなっているのだろう」
くつろげられた下半身を指しての発言に、フィルはうっと息を呑む。そうなっている――の意味を瞬時に察知して、慌てて中心を手で覆い隠した。
「……はしたない姿をお見せしてしまい申し訳ございません、坊ちゃま。日が昇り次第、フランツに頼んで抑制剤を買ってきてもらいます。ですからどうか、本日はお引き取りください」
今でさえ何とか自制している状況だというのに、目の前に好きな人がいるなんて堪ったもんじゃない。
今すぐにでもリースの名を呼びながら、溜まったものを放出したい。激しくペニスを擦り上げ、快感に任せてイッてしまいたい――
「……っ」
浅ましさに、フィルは歯を食いしばった。心配して様子を見にきてくれたリースに対し、何たる冒涜だろうか。
蹲ったまま、じっと衝動を押し堪える。ふと伸びてきた細い手に顳顬を触れられて、ビクリと肩が跳ね上がった。
「っ、坊ちゃま……っ」
「ひどい汗だ。いつもきちんと抑制剤を飲んでいる反動で、体が過剰反応を起こしているのだろう」
落ち着いた声でいい、リースはそっと親指の腹で顳顬の汗を拭う。
「坊、ちゃま……っ」
些細な刺激にもかかわらずビクビクと体が震えて、フィルは唇を噛みしめた。
「こら、噛んではだめだフィル。血が出ている」
「っ、は……っ」
すっと頬を伝って下りてきた手に唇をなぞられて、堪えようもなく浅い息が漏れた。
かくかくと、みっともなく腰が動いてしまう。必死に心を宥めようと努力するが、こちらを見つめる紅の瞳を前に、熱は煽られる一方だった。
――だめだ……。このままでは、おかしくなる……っ。
「坊ちゃま……。坊ちゃま、どうかお引き取りください……っ。どうか、お引き取りを……っ」
「こんな状態のおまえを放ってか?」
「それは……っ」
こんな状態だからこそだ。世界中の誰よりも、リースにだけはこんなみっともない姿は見られたくない。
「俺が……手で、してやろうか……?」
「はいっ⁉」
すっと股間に伸ばされた手を見て、フィルは目を瞠った。
「な、なりません坊ちゃまっ!」
慌てて声を上げ、リースの手を振り払う。
「フィルっ」
「おやめ、ください……っ。そのようなことを、してはなりません」
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