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「フィル……」
主人と執事という主従関係を除いても、ペニンダがエーナに奉仕してもらうなんてことは決してあってはならないことだ。ましてやこの国の第四王子に対し、無礼極まりない。
「フィル、手を離せ。そのままでは辛いのだろう」
なおも中心へと手を伸ばそうとするリースの腕を、フィルは掴んで離さなかった。
辛いに決まっている。ここまでくると、もはやペニスを切り落としたほうが楽なのではと思うくらいだ。流れに身を任せリースに慰めてもらえればどれほど楽になれるだろうと、そんな下卑た想像でさえ性欲を加速させる。
「フィル」
囁きかけるような声に、ビクリと体が震えた。そのすきにさっと手を振りほどいたリースが、中心へと向かってゆっくりと指を伸ばしてくる。
「アイル様が――」
口にした名前に、既のところでリースの動きが止まった。
「何……?」
「アイル様が、見ておられるかもしれません……」
掠れた声で訴えると、リースははっとしたように口を噤んだ。アイルの言動を全て把握しているリースなら、アイルが昨晩の出来事についてもぼんやりと記憶していたことを知っているに違いない。
「このようなことは、なりません……。どうか、一人にしてください……」
再度弱々しい手つきでリースの手を押し戻し、フィルは懇願した。
数秒無言で見つめ合った後、リースがすっと視線を逸らす。
「……押しかけてすまなかった」
静かに口にして、リースはフィルへと背を向けた。弟が見ているかもしれないと自覚した以上、下手な真似はできないと悟ったのだろう。
そうだ。つまるところフィルとリースは、今後一生こういった性的な接触ができないということだ。リースの肉体は、すでにリースだけのものではない――
リースは速やかにフィルのそばを離れ、部屋から去っていった。ぱたんと扉が閉じる音を聞くなり、フィルはすかさず中心へと手を伸ばし、キツく握りしめる。
「う……っ」
限界だった。リースの声。リースの視線。リースの体温――あともう少しで自分の中心に触れそうだった細い指先を思い出して、激しい衝動が込み上げる。
「はぁっ……あっ、はあ……っ! ん……っ、あっ――」
悶える四肢でシーツを掻き乱しながら、狂ったように中心を扱いて射精した。一度で治まるはずもなく、繰り返し達しては周囲をドロドロに汚していく。
「坊ちゃま、リース坊ちゃま……っ」
何度口にしても届かない。この想いの行き場はどこにもない。
こんなに苦しいのなら、いっそ正気なんてなくなってしまったほうがいいとさえ思った。それでもフィルは、意識を失うその瞬間まで、ただリースの名だけを呼び続けた。
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