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「来たか……」  呟いたウォーレンとともに、ごくりと息を呑んで扉と向き合った。 「どちら様でしょうか。ご氏名の開示をお願いいたします」  門番もついていないこの館では、玄関前のやりとりで相手を判断する他ない。防犯も兼ねての確認には、ほどもなく芯の通った声が返ってきた。 「ピーチップ王国第一王子、ラサニエル・ローズドベリーだ」  ――だ、第一王子、ラサニエル様……っ⁉  予想外だった訪問者に、フィルは動揺してウォーレンの顔を見る。ウォーレンもまた、不意打ちを食らったような表情を浮かべていた。 「し、失礼いたしましたラサニエル様! ただいまドアを解錠いたします!」  あわあわとドアノブを引くと、そこには正真正銘、ラサニエル・ローズドベリー本人が立っていた。去勢していないペニンダ特有の大柄な体躯に引き締まった筋肉――王子でありながらこの国の一級騎士として名を馳せるだけある、凛々しくて精悍なルックスだ。が、そこに立っていたのは、ラサニエル第一王子に留まらず…… 「え……あ、ウォルター第二王子に、アーロン第三王子、まで……? こ、これは……」  一番恐れていた王配がいなかったことだけがせめてもの救いではあったが、一体全体、どういう状況なのだろう。この国の王子が揃って訪問という異常事態に、フィルはあたふたと困惑する。 「久しぶりだな、フィル、ウォーレン。驚かせてすまない」  柔和な顔つきによく似合う穏やかな声音で言うのは、この国の第二王子、ウォルターだ。国王の産んだ子どもであり、子をなせるディオであることから、後継者争いに激しく巻き込まれている身である。  立場的にはリースと敵対していてもおかしくはないが、彼がそれを理由に兄弟を邪険に扱うような人間でないことは周知の事実だ。幼い頃からよくリースの面倒を見てやっており、リースも心から彼を信頼していた。 「と、とんでもございませんウォルター様。ところで、本日はどういったご用件で……」 「どういったもこういったもないよフィル! 僕、リースが事故に遭ったって聞いて心配で心配で……っ。国王様はそっとしておいてやれなんて言うけれど、そんなのできるわけないでしょっ? リースは僕の大事な大事な弟なのに!」  忙しない口調で言う童顔の彼は、四兄弟の中で唯一王配の産んだ子どもであるアーロン・ローズドベリー。ウォルターと同じくディオで、この国の第三王子だ。兄弟は兄弟でも産みの親が別であることから、やや肩身の狭い思いをして生きてきた――なんてことは決してなく、フィルの知る限り、王家の四兄弟はみな揃って仲がいい。歳は上から順に、二十二、二十、十八、十七だ。

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