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「さ、左様でございましたか。わかりました。それでは、ひとまず中へお入りくださいませ」  側近の者は馬車で待たせ、三人が館の中へ入ってくる。ひとまずはお茶をと、客間に案内して席についてもらった。  あわあわと挙動不審なシモンが持ってきた紅茶を一口啜って、ウォルターが本題を切り出す。 「急に押しかけてすまなかったな、フィル。先に断りを入れるべきかとも思ったんだが、アーロンが言うことを聞かなくてね」  さきほどの玄関前の様子からして、今度の訪問の引き金はアーロンらしい。人懐っこい性格の彼は元来リースを溺愛しており、想像に難くない話だった。 「ああ、いえ……。しかしながら王子様方。すでに国王様からお聞きかとは存じますが、現在、リース様は極度の人間不信となってしまわれ、会ってお話をするというのは難しい状況でございます。加えて全身にひどい怪我を負っておられますゆえ、ご自身では起き上がることさえできないという状況でして……」  会話をするのは不可能だということを、予めしっかりと断っておく。 「もちろん、話は聞いている。……人から悪意を持って命を奪われかけたんだ。それは、人間不信にもなるだろう」  さすがは王権の後継者候補だ。ディオでありながらも一定数の支持を得ているだけあって、他社の気持ちを慮り、理解する能力に長けている。できることならば、このままリースの気持ちを優先して城へと引き返してくれるとありがたいのだが…… 「しかしフィル。僕たちはリースの家族であり、兄弟だ。大切な弟が辛い思いをしているときに、ただ遠くから見守っているだけが優しさだとはとても思えない。事前に連絡を入れなかったことは申し訳ないと思っているが、遅かれ早かれ、僕たちはリースの様子を見にくるつもりだったよ。なあ、ラサニエル?」  ウォルターの振りに、ラサニエルは無言で首を縦に振る。寡黙ながらも、思っていることは同じだからここまでやってきたのだろう。 「僕もだよ、フィル! だからもう早くリースに会わせてよ!」  ごくごくとカップの中の紅茶を飲み干して、アーロンが前のめりに訴えてくる。う、と言葉を詰まらせた後、フィルはウォーレンと視線を合わせて、ゆっくりと頷いた。 「……かしこまりました。しかし、現在リース様は部屋でお休み中ですので、あまり長時間の滞在はご遠慮いただけると幸いです。それでもよろしければ、どうぞ私についていらっしゃってください」  席を立ち、三人の王子をリースの部屋の前へと案内する。一つ咳払いをして、こんこんとドアをノックした。 「リ、リース坊ちゃま。お兄様方がお見えです。お通ししてもよろしいでしょうか」 「いいよー!」  思いがけず返ってきた快諾に、フィルはぎょっとした。あれほど声を出してはならないと注意したはずなのに、早速これである。

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