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「――え。それじゃあつまり、今リースの体には亡くなったアイルの魂が宿ってるってこと?」
こうなってしまった以上仕方ないと、あきらめて事実を打ち明けるなり、ウォルターは信じられないといった様子で問い返してきた。
「……はい。我々も初めは信じられなかったのですが、事実として深夜二時になると、瞳の色が緑から赤へと変わられて……」
ちなみにこの事実をアイルに知られては困るため、フィルたちは今、アイルとアーロンを部屋に残して、再度客間に移動していた。
アーロンが部屋に残ったのは、本人の希望によるものだ。重症を負って目も見えなくなったと思っていた弟が予想外にピンピンしていたという事実に歓喜して、帰るまで離れたくないと訴えたのだ。アイルもまた兄の訪問を喜んでおり、今は部屋で仲良くお絵かきをしている。
「……リースは、何と言っているんだ? その……今の状況に対して……」
問う声がたどたどしいのは、きっとアイルを慮ってのことだろう。リースの人生の大半が失われた一方で蘇ったアイルの魂があるという状況では、一口に良かったとも悪かったとも言い切れない。
しかし、当のリース本人は……
「リース様自身は……こうなってよかったと、仰られております。双子の弟であるアイル様が戻ってこられて、嬉しいのだと……」
事実を伝えると、ウォルターとラサニエルはしばし沈黙した。
「……正直なところ、私もまだ全てを受け止めきれているわけではありません。しかし、他でもないリース様がアイル様を大切にしてあげてほしいと仰っている以上、私はそれに従う所存でございます。ですからお兄様方」
そこで一度言葉を区切り、フィルはラサニエルとウォルター、二人の目をまっすぐと見つめた。
「どうか、この事実は国王様や王配様には秘密にしておいていただけませんでしょうか」
頭を下げたフィルに続き、ウォーレンも一緒になって頼み込んでくれる。
「私からもお願いいたします。これ以上リース様の人生に荒波が立たぬよう、どうか温かく見守っていただきたく思います」
全てを知られてしまった以上、あとはもう、こうして善意に訴えかけるほか手段はない。もし事実が知れ渡れば、それこそ悪魔の目でなくなったという点を逆手に取られて、アイルが国王に祭り上げられてしまうかもしれない。
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