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「……荒波、か」
ふと、ウォルターが呟いた。
「きみたちの言う通りだな。……確かにリースの人生は、ひどい荒波だっただろう」
「ウォルター様……」
それを言うウォルター自身、大変な苦労をしてきたことは明白だ。子をなせるディオだからと次期国王候補に含められ、かと思えば、高潔なるエーナの血筋にディオを混ぜるなと罵られる――。本人の意思とは無関係に繰り広げられる争いに、辟易としているに違いない。
「ずっとやるせなかったんだ。僕はどうしてエーナとして生まれられなかったんだろう、と」
「……はい?」
予想外の発言に、フィルは眉を寄せた。
それはもしや、エーナとして生まれて王の座を継ぎたかったということだろうか。これまでウォルターが地位や権力を欲しているような態度や、自分がディオであることを引け目に思っている節を見たことがなかっただけに、意外性を覚えずにはいられない。
「もし僕がエーナとして生まれていれば、リースがこんなくだらない争いに巻き込まれることはなかった。瞳が赤いからと人々との接触を制限され、家族とさえろくに会えない館に隔離されることもなかった。……兄弟でたった一人エーナとして生を受け、リースが背負い続けてきたものを思うと、僕はいつも、やるせなかった」
「……」
フィルは理解した。ウォルターがエーナとして生まれたかったと思うのは、何も国王の座を継ぎたかったからというわけではないのだ。むしろその大変な使命を、末っ子であるリース一人に背負わせ続けてきたことに責任を感じている。
「約束するよ、フィル。リースやアイルのことは、決して口外しない。もちろん、国王や王配にもだ。……な、ラサニエル?」
視線を向けられ、ラサニエルは頷いた。
「それがリースの望みなら」
口数の少なさに比例して、ラサニエルの一言には重みがあった。この二人がそう言うなら、信じて間違いはないだろう。
「感謝いたします。どうか、よろしくお願いいたします」
改まって礼を言い、フィルは再度、ウォーレンと一緒に頭を下げた。一時はどうなることかと思ったが、思いがけずリースが兄弟から深く愛されている事実を再認識して、心がほっと温まっていた。
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