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「アイル様、お食事はおしまいですか。もう少し栄養を取らないと、体調を崩してしまわれますよ」
八割型料理を皿に残したままフォークを置いてしまったアイルを見て、フィルは気遣わしげに問いかける。
「……もういい。僕、もう食べたくない」
アイルは俯いて、ぽそぽそと呟いた。
――参ったな……。
三日前のラサニエルたちの訪問以降、アイルはもうずっとこんな調子だった。
というのもあの日、事実確認も兼ねてラサニエルたちが館に一泊していくことになった。一人だけ話し合いの場に参加していなかったアーロンには追って事情を説明する必要があり、その際に折悪く、アイルに話を聞かれてしまったのだ。
リースの危惧した通り、真実を知ったアイルは深いショックを受けたようだった。……無理もないだろう。実は自分は生まれてくる前に亡くなっていて、今生きているのは兄の体を借りているからなんて事実を知れば、傷つかないはずがない。ラサニエルたち含め、その夜は館にいる者全員で必死にアイルを慰めたのだが、結局アイルは泣きつかれた果てに眠りに就いてしまった。
その後、深夜二時を迎えて覚醒したリースは、まず一番にアイルが手を焼かせてすまなかったとラサニエルたちに謝罪した。ひとまずはそれでリースの存在も証明され、翌朝には「必ずリースを襲った犯人を見つけ出して報いを受けさせる」と言い残してラサニエルたちも帰っていったわけだが……はっきりいって、フィルは完全に意気消沈状態だった。
後日、二人きりで会って謝罪した際、リースはフィルのせいじゃないと庇ってくれたが、こんなふうに落ち込むアイルを見ていると日に日に罪悪感は深まる一方だ。一体全体どうしたものかと、考えるだけできりきりと胃が痛くなってくる。
「アイル様……その、リース様の件についてなのですが……」
何とか現状を改善せねばと、その晩、フィルはベッドに横になるアイルへとおずおずと声をかけた。
「しつこいようですが、アイル様は決して、リース様の体を奪って蘇られたわけではありません。むしろアイル様が蘇ってくださったおかけで、リース様は一命を取り留められたのです。ですからアイル様……どうか元気を出してくださいませんか」
正直なところ、リースから初めてこの言い分を聞かされたときには、フィルだって納得がいかなかった。いくら一命を取り留める手段だったとはいえ、リース本人が一日三十分しか覚醒していられないなんて――とそう思う気持ちは今も変わらない。
しかし、だからといってアイルに消えてほしいかと問われれば、それはまた話が別だった。リースに戻ってきてほしいと願う気持ちと、アイルを大切に思う気持ちは、フィルの中で矛盾することなく両立している。
「……僕、いらない子だって」
ふと耳を掠めた言葉に、フィルは眉を寄せた。
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