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「フィル、アイルを慰めてくれてありがとう」  深夜二時、リースは目を覚ますなり、案の定そんな言葉を口にした。フィルがアイルを意図的に抱きしめたことも、そばにいて支え続けると口にしたことも、全部わかっていての感謝の言葉だ。 「とんでもございません、坊ちゃま。もとはといえば、私の不注意によって招いてしまった事態ですので……」 「それは気にしなくてもいいと言っただろう。大体、机の下に人が隠れているなんて気づかなくて当然だ」  それはまあ、その通りだ。アーロンに事情を説明している際、机の下からしくしくと啜り泣く声が聞こえてきたときには冗談でなく心臓が飛び出すかと思った。場所は選んで話したつもりだったのだが、予想外にイタズラ好きのアイルが机の下でかくれんぼをしていたのだ。 「しかしまあ、俺も人のことは言えないな」 「え?」 「アイルが言っていた王配の話だが……あれもその昔、俺がイタズラのつもりで国王の部屋のカーテンの中に隠れていた際に聞いてしまったことなんだ。きっとアイルはその言葉を、今の今までずっと気にしていたんだろうな」  ――坊ちゃまが、イタズラ……?  食いつくところはそこではないのだろうが、リースのそんな姿はとても想像できずフィルは首を傾げた。察したのだろう、リースがふっと鼻を鳴らして笑う。 「フィルには想像がつかないだろうな。何せ俺がイタズラをしたのは、人生でその一度きりだったから」 「一度、きり……」 「その一度で、運悪くアイルの話を聞いてしまったからな。……その場に自分がいない前提で話される内容を盗み聞くことの恐ろしさを、嫌というほど思い知った」  なるほどと、フィルは思った。要するにリースは、その一回を期にイタズラという行為そのものにトラウマを抱いてしまったということだ。  であればもしかすると、アイルも今後は下手に隠れて人を驚かせてやろうなんて思わなくなったかもしれない。イタズラは確かに手を焼かされるが、何もそんな痛い目を見て学習してほしいわけではない。 「……だが、アイルの解釈には一部誤解があるみたいだ。王配は何も、アイルの存在を否定するつもりであんな発言をしたわけじゃない」 「……と、言いますと?」 「あの時期、国王はまだアイルの死産から立ち直ることができず、毎日のように自分を責めていた。しかし現実問題、双子の出産は父体にかなりの負荷がかかるうえ、下手をすれば父子ともに亡くなってしまう可能性だってある。王配は子どもを諦めて中絶するべきだと訴えたが、国王は自分の命に変えてでも双子揃ってこの世に送り出してあげたいと言って妊娠を続行した」

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